2023年5月23日 厚生労働委員会質疑「障がい福祉サービスの“見守り”を知っていますか?」
○天畠大輔君
れいわ新選組の天畠大輔です。介護保険優先原則について質問いたします。代読お願いします。
障がい者が65歳になったとき、それまで利用していた障がい福祉サービスから介護保険への移行を迫られる「介護保険優先原則」の問題が障がい者の生活を脅かしています。障がい福祉サービスが命綱の私にとっても介護保険優先原則の問題は人ごとではありません。重度障がい者の私は、障がい福祉サービスにおける重度訪問介護という制度によって、24時間介助者とともに自立した生活を送れています。しかし、介護保険に移行すればどうなるか。24時間介助者をつけられず私は生きていけません。
ここで、厚労省に伺います。
障がい者が65歳になった場合、障がい福祉サービスから介護保険へ一律に移行しなければならないのでしょうか、簡潔にお答えください。
○政府参考人(辺見聡君)
我が国の社会保障全体の体系におきまして、あるサービスが公費負担制度でも社会保険制度でも提供されているときは、保険料を支払い、国民が互いに支え合う社会保険制度によるサービスをまず優先するという保険優先の考え方が原則となっているところでございます。障害福祉制度と介護保険制度の関係につきましても、この原則に基づき、同様のサービスを介護保険サービスにより利用できる場合には、まず介護保険制度を利用していただくこととしております。
その上で、運用に当たっては、高齢者の、高齢の障がい者に対して一律に介護保険サービスが優先されるものではなく、お1人お1人の個別の状況を丁寧に勘案し、介護保険サービスだけでなく、障がい福祉サービスの利用も含めて、その方が必要とされる支援が受けられることが重要であると考えてございます。このため、介護保険サービスの支給限度額、基準額の制約等により介護保険サービスでは十分なサービスが受けられない場合には、障害福祉サービスも利用できるなどの取扱いを通知等でお示しをしているところでございます。
○天畠大輔君
代読します。
答弁にもありましたように、介護保険を優先とした上で足りない分を障がい福祉サービスで補うことはできます。しかし、いくら通知による周知を行ったとしても、自治体の判断によっては、一律に介護保険を優先する、障がい福祉サービスを不当に打ち切る、といった事態が現に起きています。
岡山市や千葉市では、障害福祉サービスを不当に打ち切られた当事者が自治体を訴えました。千葉市の天海正克さんは、東京高裁で勝訴しましたが、千葉市が上告したことにより、現在も闘い続けています。障害福祉サービスの不当な打切りは、自治体が障がい者の命を奪う行為です。決して許すことはできません。
厚労省に伺います。
高齢障がい者の介護保険優先原則について、各自治体のより適切な運用に向けて、今後どのように対応されるのでしょうか。
○政府参考人(辺見聡君)
厚生労働省におきましては、介護保険優先原則の運用に係る留意事項につきまして、これまで累次にわたり通知等でお示しをしてきており、直近では、平成27年に事務連絡を発出をしているところでございます。
令和4年6月に取りまとめられました社会保障審議会障害者部会の報告書におきまして、高齢の障がい者に対する障がい福祉サービスの支給決定に係る運用について市町村によって差があるとの指摘があることから、より適切な運用がなされるよう留意すべき具体例を示すことが必要である旨のご意見が示されたところでございます。
この報告書を踏まえまして、基本的な介護保険優先原則の考え方を維持しつつも、高齢の障がいのある方が必要な支援を受けることができるよう、市町村が留意すべき具体例を事務連絡としてお示しすることを考えているところでございます。
○天畠大輔君
そもそも、介護保険と障がい福祉サービスは似て非なるものです。代読お願いします。
たとえば、私が利用している重度訪問介護と介護保険による訪問介護を例に挙げます。サービスの名前は似ていますが、介護の中身が全く違います。まず、障害保健福祉関係主管課長会議資料に、介護保険の訪問介護と重度訪問介護の違いが明確に記されていますので、事前に通告したとおり、厚労省よりご答弁願います。
○政府参考人(辺見聡君)
ご指摘いただきました令和5年3月の障害保健福祉関係主管課長会議の資料ということでございますが、同資料におきましては、重度訪問介護に係る支給決定事務の留意点といたしまして、重度訪問介護は、介護保険の訪問介護と違い、見守り等を含む比較的長時間にわたる支援を想定しているものであることから、利用者1人1人の障がいの状況、その他の心身の状況及び利用意向等を踏まえて、適切な運用及び支給量の設定を行うこととしているところでございます。
その上で、介護保険制度の訪問介護の事業運営に関する通知でございます指定訪問介護事業所の事業運営の取扱等について、平成12年11月16日付け、老振第76号でございますが、この通知につきまして、障がい福祉サービスである重度訪問介護の取扱いとして適用又は準用されるものではないことに留意されたいとお示しをしているところでございます。
○天畠大輔君
代読します。
今の答弁で“見守り”という言葉がありました。これが私たち重度障がい者の生命線となります。
資料1をご覧ください。
厚労省の通知にもあるように、重度訪問介護による見守りは、日常生活に生じる様々な介護の事態に対応するための支援です。私が今日こうして質疑に立てているのも、起床時の車椅子への移乗、食事、トイレ、着替え、自宅から国会までの移動、その全てを介助者がひとときも離れることなく支援してくれているからです。加えて、頻繁に顎が外れ、呼吸困難になる私は、常に介助者がそばにいなければ、生命維持すらできません。私が生命維持と社会参加を実現できているのは、必要に応じて介助者が常に対応できるよう、そばにいる見守りの支援が認められているからです。見守りを含めた24時間の介助保障がなければ、社会参加はおろか生命維持もできない、それが重度障がい者である私の現実なのです。この見守りの考え方は介護保険にはありません。これでは、健常者と同じように地域で生活し、社会参加をする権利は保障されません。
重度訪問介護の起源は1970年代からの重度障がい者による命懸けの運動です。各地域でつくられた重度障がい者の介護保障制度が2003年に支援費制度という国の制度へ移行し、2006年の障害者自立支援法により、名称が現在の「重度訪問介護」になりました。このとき、重度訪問介護に見守りが含まれるのか否かが、障がい当事者にとっては生死を分かつほど問題でした。重度訪問介護の見守りの考え方がなければ、長時間の介護保障は実現されないからです。
ここで、介護保障運動の中心的存在であった新田勲氏の言葉を引用します。
「見守り介護の本質は命の保障ということです。障害が重くなればなるほど、突発的な事故や発作・急変が起きます。私もいつなんどき、硬直や発作が起きるか分かりません。介護人がいない時間があるということは、私のような重度障害者にとっては非常に恐ろしい状況なのです。介護人が常に脇にいて、障害者はそれによって安心して命を保障されて、初めて生きていけるのです。手足の動かしたいときに動かして、喉が渇いたときに水を飲んで、会話したいときに会話して、体調が悪いときに対応する、これこそが全身性重度障害者の自立の見守り介護という介護保障なのです。」
こうした新田氏らの強い働きかけにより、重度訪問介護に見守りという文言が残りました。
さらに、資料2のとおり、2006年6月14日、衆議院国土交通委員会において、園田康博議員が厚労省に質問し、重度訪問介護の支援内容に見守りが含まれることを明確にしました。大臣、重度障がい者が地域で健常者と同じように生きていくに当たり、見守りがどれだけ重要な支援なのか分かっていただけたでしょうか。ここで、介護保険優先原則の話に戻りますが、重度訪問介護を利用している当事者が介護保険に移行することは、介助者の見守りが認められなくなるということであり、死に直結します。介護保険優先原則について、より適切な運用がなされるよう、留意すべき具体例を事務連絡として示すとのことですが、主管課長会議資料にもある介護保険の訪問介護と重度訪問介護の違いをきちんと明記することが必要不可欠だと考えます。大臣、いかがでしょうか。
○国務大臣(加藤勝信君)
保険優先の考え方に関連して、社会保障審議会障害者部会において、高齢の障がい者に対する障がい福祉サービスの支給決定の運用に関し、市町村によって差異があるとの指摘があったことを踏まえ、今後、まずは留意すべき具体的な事例を事務連絡によって示すことが必要とされたところでございますので、まさにそうした対応を図っていきたいと考えております。
その上で、お尋ねの重度訪問介護については、見守り等を含む比較的長時間にわたる支援を想定しているものであり、利用者1人1人の障がいの状態等を踏まえて適切に支給決定を行うことが重要であると、先ほど部長からも答弁をさせていただきました。
事務連絡においては、基本的な優先、保険優先の原則を維持しつつも、申請者ごとの個別の状況を丁寧に勘案し支給決定がなされるよう、ご指摘いただいたような観点も含め、その内容について引き続き検討していきたいと考えております。
○委員長(山田宏君)
天畠委員が質疑の準備をしておりますので、委員の皆様には着席のまましばらくお待ちください。速記を止めてください。
○委員長(山田宏君)
速記を起こしてください。
○天畠大輔君
是非検討してください。やはり、介護保険と重度訪問介護が重複するという政府の考え方は納得できません。代読お願いします。
先ほど読み上げていただいた主管課長会議資料の文言で、平成12年老振第76号が、重度訪問介護には適用されないという箇所がありました。資料3のとおり、老振第76号が重度訪問介護には、あっ、失礼いたしました、老振第76号には、介護保険の生活援助の範囲に含まれないと考えられる事例が記載されています。いわば禁止事項です。来客の応接や草むしり、大掃除などが禁止されていますが、自立生活をしていれば日常的に当然必要となる行為です。重度訪問介護の利用者がここにある業務をヘルパーに行ってもらいたい場合、それが介護保険ヘルパーであればできないことになります。これでも介護保険と重度訪問介護は重複するといえるのでしょうか。
資料4をご覧ください。
障害福祉と介護保険の適用関係を明示した平成19年の課長通知では、介護保険サービスには相当するものがない障害福祉サービス固有のものとして重度訪問介護は例示されていません。訪問介護にも重度訪問介護にも食事やトイレ、入浴が含まれているから重複していると、サービス内容が似ているかどうかだけで判断するのはおかしいと考えます。
介護保険の訪問介護は、決められたケアプランに従って食事や入浴などの時間帯だけヘルパーが来ます。その日の体調などによって食事や入浴の時間を変更することすら困難です。一方、重度訪問介護であれば、介助者はいつも付き添っているので、その日の体調などによって食事や入浴の時間も自由に決められ、重度障がい者のニーズに即した介助が受けられます。つまり、重度訪問介護を利用する障がい者が介護保険に移行してもニーズを満たせません。介護保険と重度訪問介護は代替不可能であり、重複するという考え方は明らかに合理性を欠くのです。ですから、重度訪問介護は障害福祉サービス固有のものであると解釈の変更を検討すべきと強く求めまして、次に行きたいと思います。
これから令和6年度の障害福祉サービス報酬改定に向けた検討が始まるかと思いますので、1点伺います。現在、グループホームに住む重度の障がい者は、一定の条件の下で世話人や生活支援員とは別に個人単位でヘルパーを利用することができます。厚労省より制度の概要を簡潔にお答えください。
○政府参考人(辺見聡君)
障がい者のグループホームにおきましては、事業所の責任の所在の明確化などの観点から、原則として当該グループホームの従業者以外の者による介護等を受けさせてはならないこととしているところでございます。
その上で、グループホームに居住する重度障がい者が一定の要件を満たす場合には、特例的取扱いとして外部のホームヘルパーを個人単位で利用することを令和5年度末まで時限的に認めているところでございます。
○天畠大輔君
代読します。
ありがとうございます。厚労省の担当者にお話を聞いてみますと、喀たん吸引の必要な障がい者や強度行動障がい者への支援など、グループホームの職員だけでは対応が難しい場合に、個人ヘルパーを入れることで利用者の方に安心してサービスを提供できることがメリットになると聞いています。
しかし、個人ヘルパーの存在は、本来、サービスを提供する事業者側の都合ではなく、当事者が必要なときに必要なことをする普通の暮らしを支えるためにあります。常時見守りが必要な人、夜間帯の支援がもっと必要な人、独り暮らしに向けてヘルパーを使いたい人、様々なニーズを持った方々がいます。そして、これらは健常者であれば当たり前に日々行っていることです。
また、重度の障がいがあると、私と同じようにコミュニケーションに時間がかかる人も多くいます。グループホームの職員だけでは身体介護だけで精いっぱいだが、個人ヘルパーが入ることで、最適なコミュニケーション方法を探したり、本人との関係づくりに時間をかけられると伺っています。1人の支援者で何人の障がい者が見られるかではなく、1人1人の障害に合わせて何が必要なのかを考えるべきです。その1つが個人ヘルパーの利用です。個人ヘルパーがいなければ、たとえば3人の重度障がい者を1人の職員が支援することになります。すると、どうなるか。安全に時間をかけて食事ができない。排せつもおむつで我慢させる。小まめな体位交換ができず、褥瘡ができる。重度障がいを持つ私には容易に想像ができます。障がい者本人の人権侵害にも直結するのです。
しかし、ヘルパー利用の特例は現在時限的な措置となっています。なんと平成18年から3年ごとに措置が延長され、恒久化の議論が前に進みません。今年もこの声をきちんと聞くとともに、条件を今以上に厳しくすることがないよう求めたいと思いますが、大臣、いかがでしょうか。
○国務大臣(加藤勝信君)
今年は、障がい福祉サービス等の報酬改定のタイミングでもございます。その検討において、障がい者のグループホームにおける外部のヘルパー利用の特例措置の取扱いも含めた障害福祉サービス全体について現場の皆さんの声も伺いながら、必要な検討を進めていきたいと考えております。
○委員長(山田宏君)
速記を止めてください。
○委員長(山田宏君)
速記を起こしてください。
○天畠大輔君
それぞれのニーズに応えるために、個人ヘルパーの存在は必要です。検討をお願いいたします。代読お願いいたします。
最後に、大臣に1点伺います。
今年3月15日の参議院予算委員会において、木村英子議員が、コロナの影響や物価高騰による介護現場の深刻な人手不足を訴え、早急に処遇改善加算を増額して介護ヘルパーの賃金の底上げを図っていただきたいと大臣に求めておられました。大臣、介護現場の深刻な人手不足の現状認識、そして、次期報酬改定に向けて処遇改善加算増額の検討への意気込みを改めてお答えください。
○国務大臣(加藤勝信君)
障がい福祉、介護分野で必要なサービスをしていくために人材の確保が必要であり、またその 確保に向けても処遇改善は重要な課題であります。現場で働く方々の給与を恒久的に3%程度引き上げるための措置など、これまでも累次の処遇改善を行ってまいりました。特に経 験、技能のある障がい福祉、介護職員の方については、他産業と遜色ない賃金水準を目指し、重点的に処遇改善を図っているところでございます。今後、まずは、今般の処遇改善の措置が職員の給与にどのように反映されているかなどについて検証を行い、次期報酬改定に向けた議論につなげていきたいというふうに考えております。また、公的価格評価検討委員会の中間整理を踏まえ、費用の使途の見える化を行いながら、現場で働く方々の処遇改善、業務の効率化、負担軽減に今後とも努めてまいります。
○天畠大輔君
高い水準での改善を求めます。質疑を終わります。