2023年6月8日 厚生労働委員会質疑「ゲノム医療と差別禁止は両輪だ」
〈質疑〉
○天畠大輔君
れいわ新選組の天畠大輔です。
ゲノム情報を理由とする差別の防止について質問します。代読お願いします。
近年、私たち人間の持つ遺伝情報に基づくゲノム医療が、がんや難病の治療に用いられています。ゲノムとはDNAの全ての遺伝情報を指し、いわば生物の設計図のようなものです。たとえば、がんゲノム医療では、がんの遺伝子を詳しく調べることで、1人1人の遺伝子の変化に応じた適切な治療法や効果的な薬を見付けることが期待されます。
今後、ゲノム医療を望む誰もがその利益をひとしく享受できる環境整備は重要です。一方で、ゲノム情報は、患者個人のみならず、その子孫や家族などが不利益や差別を受ける可能性がある情報です。つまり、それらに基づく不利益や差別は、すべての人やその家族が当事者となる問題なのです。日本においても、ゲノム医療を提供する前提として、ゲノム情報を理由とする差別を明確に禁止し、差別を未然に防止する法整備が急務です。
ゲノム情報を理由とする差別の実態については、厚生労働科学特別研究事業において、「遺伝子情報の利用や差別的取扱いへの一般市民の意識に関する研究」が行われています。そのアンケート結果を見ると、遺伝情報を理由とする差別を受けた経験として、保険加入の拒否や高額な保険料の設定、就職先の内定取消しや勤務先での異動や降格、婚約破棄などが挙げられています。
資料1をご覧ください。保険における差別については、生命保険協会などが保険の加入時や支払時に遺伝情報を収集・利用することはないと明言しています。
また、厚労省では、事業主向けに「公正な採用選考をめざして」というパンフレットを出しています。資料2をご覧のとおり、「就職差別につながるおそれのある事項」として病歴や健康診断が挙げられていますし、採用選考の際に遺伝情報を取得したり利用したりしないように周知がされています。
しかし、ゲノム情報を理由とする差別を明確に禁止、防止するための根拠法令はなく、各省庁や各業界の任意の取組に委ねられているのが現状です。医療の進歩とともにゲノム情報がより身近な個人情報となったとき、差別防止の実効性を担保できる法整備が日本ではなされていません。一方、海外に目を向けると、アメリカでは2008年、カナダでは2017年に遺伝情報に基づく差別を禁止する法律がすでに作られ、ゲノム医療の進歩に先んじた法整備がなされています。
患者団体や医師会からも、ゲノム医療の推進とゲノム情報を理由とする差別防止を同時に規定することを求める要請が昨年出ています。そして、超党派の「適切な遺伝医療を推進するための社会的環境の整備を目指す議員連盟」での議論を経て、この後、採決が予定されているゲノム医療法案が提出され、衆議院で可決されました。
本法案の基本理念には、「ゲノム情報の保護が十分に図られるようにすること」や「ゲノム情報による不当な差別が行われることのないようにすること」が入っています。しかし、ゲノム医療を取り巻く環境変化は非常に速く、海外の法整備の事例と比べても日本の対応は遅れています。ゲノム医療を所管する厚労省としては、ゲノム情報の保護や差別防止の取組に向けた議論の場を早急に設ける必要があると考えますが、厚労大臣の考えをお聞かせください。
○国務大臣(加藤勝信君)
委員ご指摘のように、ゲノム医療に対しては大変高い期待がある一方で、それを推進するにあたっては、その前提として、ゲノム情報の保護、不当な差別取扱いへの対応、生命倫理への配慮などに適切に対処しつつ取組を進めることが重要であります。厚労省においても、これまで、全ゲノム解析等の推進に当たり、倫理的、法的、社会的課題、いわゆるELSI(Ethical, Legal and Social Issues)についても課題として取り上げ、必要な対応等の議論を行ってきたところであります。引き続き、国民が安心してゲノム医療を受けられるよう、全ゲノム解析等の推進に関する専門委員会、その他適切な場において協議をし、また、関係省庁も多岐にわたりますが、そうした関係省庁とも連携して必要な取組を進めていきたいと考えております。
○天畠大輔君
代読します。
差別防止の取組を確実に進めるためには、議論の場に、がんや難病の患者などゲノム医療を受ける立場にある方、それのみならず、遺伝性疾患や障がいをもつ当事者の参画が必要不可欠だと考えます。大臣、ゲノム情報を理由とする差別の防止について、当事者参画の下で検討を進めていただけますか。
○国務大臣(加藤勝信君)
ゲノム医療を推進するにあたっては、ゲノム医療を受ける立場にあるがんや難病の患者の方、遺伝性疾患や障がいをもつ方など、関係者に幅広くご参加いただきつつ取組を進めることが重要と考えております。これまで、全ゲノム解析等の推進について協議する全ゲノム解析等の推進に関する専門委員会の委員としてがん、難病の患者団体の方にもご参加いただき、ご参画いただき、患者・市民参画、いわゆるPPI(Patient and Public Involvement)についても議論を行ってきたところでございます。引き続き、国民が安心してゲノム医療を受けられるよう、全ゲノム解析等の推進に関する専門委員会その他の適切な場において、関係者に幅広くご参画いただきながら、また、関係省庁と連携しつつ議論を進め、必要な取組を進めていきたいと考えております。
○委員長(山田宏君)
速記を止めてください。
○委員長(山田宏君)
速記を起こしてください。
○天畠大輔君
ぜひ進めてください。しかし、ゲノム医療法案は、差別を禁止・防止する具体的な規定がなく、実効性に懸念が残ります。代読お願いします。
ゲノム情報を理由とする差別の防止は、将来的に法務省の重要な人権課題の1つになると考えます。法務省は、この法案をまとめた「適切な遺伝医療を推進するための社会的環境の整備を目指す議員連盟」の議論にきちんと参加されてきたのでしょうか、端的にお答えください。
○政府参考人(柴田紀子君)
ご指摘の議員連盟には法務省はこれまで出席しておりません。
○天畠大輔君
残念です。今後、法務省は積極的に関与すべきです。代読お願いします。
今後は、ゲノム情報を理由とする差別防止について、法務省としてしっかり取り組んでいくおつもりはありますか。また、ゲノムの研究開発の取りまとめをする内閣府からも意気込みをお聞かせください。法務省、内閣府の順に簡潔にお答えください。
○副大臣(門山宏哲君)
法務省の人権擁護機関が設置する相談窓口におきましては、様々な人権問題に関し困難を抱える方々から人権相談を受け付けており、人権侵害の疑いを認知した場合には、人権侵犯事件として立件した上で調査を行い、事案に応じた適切な措置を講じるよう努めているところでございます。
このような措置の例としては、相談内容や相談者の意向に応じ、関係行政機関又は関係のある公私の団体への紹介を行うといった援助などがございます。また、法務省の人権擁護機関では、お互いの人権を尊重することの重要性について国民の理解を深めるための人権啓発活動も行っているところでございます。
ゲノム情報を理由とする不当な差別的取扱いの事案等が発生するのではないかとのご指摘がございますが、法務省といたしましては、ゲノム情報を理由とする不当な差別や偏見はあってはならないものと認識しております。
今後とも、多様性が尊重され、全ての人々がお互いの人権や尊厳を大切にし、生き生きとした人生を享受できる共生社会の実現を目指し、関係省庁と連携しながら、人権啓発活動、人権相談、調査救済活動に取り組んでまいります。
○政府参考人(長野裕子君)
お答えいたします。
内閣府としましては、研究開発の観点から、現在、ゲノムについての基礎から実用化までの一貫した研究を推進しているところでございます。ご指摘の点を含め、倫理的、法的、社会的課題の重要性は認識しているところでございます。研究開発を推進する観点から、厚生労働省を中心とする各省に協力して取り組んでまいる所存でございます。
○天畠大輔君
代読します。
次に、金融庁に伺います。金融庁は、生命保険などの加入時や支払時にゲノム情報を理由として差別的な取扱いを行うことは不当であるとお考えですか。また、今後も、ゲノム情報を理由とする差別が起こらないよう、関係省庁と連携してしっかり取り組んでいくおつもりはありますか。
○政府参考人(三好敏之君)
お答え申し上げます。
委員ご提出の資料にありますように、保険会社等が保険の引受け、支払事務において遺伝学的検査結果やゲノム解析結果の収集、利用は行っていないということを生命保険会社等が公表しているものと承知しております。
金融庁といたしましては、生命保険協会等において見解が示されているように、現在の医療技術や社会的な議論状況等に照らせば、保険の引受けや支払において遺伝情報を収集、利用することは特定者に対する不当な差別的取扱いに当たるものと考えてございます。
金融庁におきましては、これまでも、生命保険会社との、生命保険協会、失礼いたしました、生命保険協会等との意見交換会等を通じて、特定者への不当な差別的取扱いの排除に関しまして、保険会社の役職員に対する教育の徹底などを促してきたところでございます。今後とも、必要に応じて関係省庁とも連携しつつ、しっかりと対応してまいりたいと考えてございます。
○天畠大輔君
代読します。
ゲノム医療法案は、ゲノム医療の推進が大前提にあり、基本理念に差別防止が明記はされているものの、法案名や目的、基本計画、財政上の措置、国や地方公共団体などの責務に差別防止施策の観点が乏しく、ゲノム医療の推進と差別の禁止・防止が本当の意味で両輪となっていません。ゲノム情報が今後より身近な個人情報となり、差別が横行してから法整備を行うのでは遅過ぎます。
れいわ新選組は、今回のゲノム医療法案には反対し、差別防止の実効性をより高めた修正案を提出します。病気や障がい、遺伝情報やゲノム情報に基づく社会的不利益は、個人の課題ではなく社会の課題であるとの認識の下で、あらゆる差別のない社会を目指して今後とも取り組んでいくことを申し上げ、質疑を終わります。
〈ゲノム医療法案に対するれいわ新選組修正案趣旨説明〉
○天畠大輔君
代読します。
私は、ただいま議題となっております「良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律案」に対し、れいわ新選組を代表して、修正の動議を提出いたします。修正の内容は、お手元に配付されております案文のとおりです。これより、その趣旨についてご説明申し上げます。
近年、私たち人間のもつゲノム情報に基づくゲノム医療が、がんなどの分野で用いられるようになっています。ゲノム医療を望む誰もがその利益をひとしく享受できる環境整備が重要であるとともに、その推進にあたっては、ゲノム情報を理由とする差別の禁止や、ゲノム情報の保護・管理の徹底を前提としなければなりません。
ゲノム情報は、漏えいやその使われ方により、患者個人のみならず、その子孫や家族などにも不利益や差別をもたらすおそれがある最もセンシティブな個人情報です。しかしながら、本法律案の目的規定や責務規定などには、ゲノム情報に基づく差別の禁止や、ゲノム情報の漏えい防止等の施策に関する具体的な規定が設けられておりません。
そのため、ゲノム情報の漏えいや目的外使用を規制し、差別を禁止・防止するための具体的な法整備を行う必要があります。このような観点から、本修正案を提出いたしました。
修正の要旨は、第1に、題名を「ゲノム情報を理由とする差別の防止等に関する施策並びにゲノム医療の研究開発及び提供に関する施策の総合的な推進に関する法律」に改めること。
第2に、目的規定に、ゲノム情報を理由とする差別の禁止やゲノム情報を理由とする差別の防止等に関する施策等に関する文言を追加すること。
第3に、定義規定について、新たにゲノム情報を理由とする差別に関する定義を追加すること。ゲノム医療の定義について、その対象から胎児及び生殖細胞を除くこと。また、ゲノム情報の定義について、その対象に胎児が含まれる旨を明示するとともに、受精卵・受精胚を追加すること。
第4に、理念規定に、ゲノム情報を利用とする差別の禁止や当事者の意思に基づくゲノム医療の提供等に関する規定の追加等を行うこと。また、責務規定に、ゲノム情報を理由とする差別の防止等やゲノム情報の保護に関する文言を追加するとともに、新たに事業者及び国民の責務規定を追加すること。
第5に、政府が講じなければならない財政上の措置等及び政府が策定しなければならない基本計画に、ゲノム情報を理由とする差別の防止等に関する施策を追加すること。
第6に、基本的施策に、ゲノム情報を理由とする差別の防止及び解消等に係る規定を追加するほか、ゲノム情報を理由とする差別の防止等の観点から各規定の順序や文言の整備を行うこと。
第7に、国は、この法律の施行後1年以内に、ゲノム情報を理由とする差別の防止及び解消並びにゲノム情報を理由とする差別を受けた者の救済、ゲノム医療の範囲の検討、生命倫理に配慮したゲノム医療の研究開発及び提供の確保等の事務を中立公正な立場で独立してつかさどる独立行政委員会を設置するために必要な法制上の措置を講ずるものとする規定を追加すること。
第8に、国は、この法律の施行後1年以内に、ゲノム情報を理由とする差別に関する罰則の整備、ゲノム情報の不正取得・漏えい等のゲノム情報の不正な取扱いに関する罰則の整備その他のゲノム情報を理由とする差別の防止及びゲノム情報の適正な取扱いに関する、適正な取扱いの確保に関する課題に対応するために必要な法制上の措置を講ずるものとする規定を追加すること。
第9に、検討規定について、検討の時期を5年から3年に短縮すること。
以上が本修正案の趣旨及び要旨であります。何とぞ委員各位のご賛同をお願い申し上げます。
○天畠大輔君
れいわ新選組の天畠大輔です。原案反対、修正案賛成で討論いたします。代読お願いします。
日本における遺伝子治療が初めて実施されてから四半世紀以上が経過します。原案においては、ゲノム医療の推進とゲノム情報に基づく差別への適切な対応が盛り込まれているものの、法律制定を強く望まれてきた多くの患者の皆さんや国民に真に開かれた法案になっているとは言えません。ゲノム医療の推進にあたっては、ゲノム情報を理由とする差別の禁 止やゲノム情報の保護、管理の徹底を前提としなければならないにもかかわらず、原案にはそれらの具体的な規定がないだけでなく、ゲノム情報の漏えいや目的外使用を規制するための方策も示されていません。また、個人の卵子・精子といった生殖細胞に加え、胎児がゲノム医療の対象に含まれ得るにもかかわらず、具体的な倫理規定や罰則規定が設けられないままとなっています。
かつて多くの障がい者らに不妊手術や人工妊娠中絶を強いた優生保護法の優生条項は、1996年に廃止されました。しかし、私たちの社会は、決して内なる優生思想と決別できていません。差別禁止に関する規定さえなく、また生命倫理への適正な配慮という曖昧な規定にとどまる原案の下では、より良いとされる遺伝子を上位に置き、障がいや難病のある遺伝子を劣位に置く価値観の下、生身の障がい者や患者の生きづらさを助長することが危惧されます。よって、原案には賛成できません。
本日午前の質疑における各省庁からの答弁も具体性がなく、心もとないと感じます。一方、我が党の提出した修正案では、ゲノム情報を理由とする差別の禁止とその防止等に関する施策を、目的、定義、理念、責務、基本計画、基本施策に明確に定めています。
また、ゲノム医療の名の下に不要な遺伝子を選別した上で子を誕生させるなどの医療行為が十分な規制もなく実施されることがないように、ゲノム医療の対象から生殖細胞及び胎児を除きます。さらに、遺伝子ビジネスなどの事業者の責務を明確にし、法施行後1年以内に差別を受けた方の救済や生命倫理に配慮した研究開発及び提供の確保等の事務を独立し てつかさどる独立行政委員会を設置する法整備を行うよう定めています。全ての人が良質なゲノム医療がもたらす利益をひとしく安心して享受するためには、修正案がより実効性があり最適であると考えます。
以上、ゲノム情報に基づくあらゆる差別の禁止と防止策の具体的措置を求め、原案反対、修正案賛成の討論といたします。
〈ゲノム医療法案に対するれいわ新選組修正案趣旨説明についての参考資料〉
参議院法制局ホームページ 第211国会 参法・修正案一覧
「良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律案に対する修正案」(提出者:天畠大輔)
・修正案
・要綱
・新旧