2023年6月6日 厚生労働委員会質疑(旅館業法改正案審議)「分断を深める宿泊拒否拡大に異議あり」

〈質疑〉
○天畠大輔君

代読します。れいわ新選組の天畠大輔です。合理的配慮を制限する旅館業法等改正案について質問します。

今般の法改正の基となった「旅館業の見直しに係る検討会」では、感染症対策が出発点だったものの、モンスタークレーマーやカスタマーハラスメント対応も俎上にのりました。閣法は、衆議院での修正を経たものの、感染症拡大防止の大義名分を利用して、本来は全く別問題であるいわゆるカスタマーハラスメント対策が無理やりねじ込まれたという意味で、立法事実を大きく欠く法案であることに違いはありません。
本来、カスタマーハラスメント問題は、旅館業のみならず、民・民契約における「優越的地位の濫用」や、「買い手が売り手よりも圧倒的に強い」という日本の商習慣全体の中で議論すべき事柄であるにもかかわらず、今般の法改正によって合理的配慮が必要な障がい者が更なる差別にさらされるという大きな危険に直面しています。

さて、旅館業法修正案第5条3には、宿泊拒否事由としてこのように書かれています。
「宿泊しようとする者が、営業者に対し、その実施に伴う負担が過重であって他の宿泊者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのある要求として厚生労働省で定めるものを繰り返したとき」
本案において「負担が過重」という文言を使用する必要はなぜあったのでしょうか。簡潔にお答えください。

○国務大臣(加藤勝信君)
障害者差別解消法第8条では、「障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利擁護、権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、障害者障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない」と規定をされておりますが、ここで言う「負担が過重」については、事業者において事業への影響や実現可能性等の要素を考慮し、個別具体的な状況に応じて総合的、客観的に判断することが必要と承知をしております。

本法案では、こうした法律上の文言の用い方も参考にしつつ、改正後の旅館業法第5条第1項第3号において、実施に伴う負担が過重でない要求についてまで宿泊拒否の対象とするものでないことを明らかにするため、「負担が過重」という文言を使用することとしたところであります。この実施に伴う負担が過重な要求については、さらに厚生労働省で明確化、限定化、限定的にすることにしております。
したがって、障害者差別解消法の合理的な配慮が求められるような事例については、改正後の旅館業法第5条第1項第3号は、に該当しないと考えており、同第5条の他の各号に該当する場合を除き、宿泊を拒否することはできないものと考えております。

○天畠大輔君
代読します。
そうです。「負担が過重」というのは、障害者差別解消法にある文言です。しかし、この文言を旅館業法改正で使うことは問題です。
内閣府に伺います。何が「過重な負担」にあたるのかの判断について、障害者差別解消法の基本方針ではどのように記載されていますか。

○政府参考人(滝幹滋君)
お答え申し上げます。
合理的配慮の提供における「過重な負担」については、障害者差別解消法に基づく政府全体の方針であります基本方針において、過重な負担については、行政機関等及び事業者において個別の事案ごとに事務事業への影響の程度や実現可能性の程度等の要素を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的、客観的に判断することが必要であることを過重な負担の基本的な考え方としてお示しをしております。

また、改正障害者差別解消法の施行日である令和6年4月からの適用に向け、本年3月に基本方針を改定いたしまして、過重な負担にあたると判断した場合は、行政機関等及び事業者と障がい者の双方が、お互いに相手の立場を尊重しながら建設的対話を通じて相互理解を図り、代替措置の選択も含めた対応を柔軟に検討することが求められることも新たにお示しをしてございます。

○天畠大輔君
つまり、建設的対話が重要ということです。代読お願いします。

資料1をご覧ください。障害者差別解消法においては、「過重な負担」という文言は、「負担が過重でないときは合理的な配慮をしなさい、または努めなさい」という文脈で使われています。つまり「できないことをすべきだ」と求めているのではなく、利害関係者双方の「建設的な対話」に基づき、「無理なくできることを探ろうとする」関係づくりを要請しているのです。資料2にあるように、障害者基本法でも同じです。ところが、資料3をご覧ください。本案では、宿泊業者にとって過重な負担とサービス阻害のおそれがあれば、その要求を退けるだけでなく、その人物の宿泊までも拒否するという大変厳しい内容を定める法文となっています。言い換えれば、全く逆のベクトルで「負担が過重」という文言が使われているのです。
今内閣府から答弁があったように、合理的配慮における配慮とは、同情や思いやり、気遣いをいうのではありません。社会生活上のさまざまな障壁を事業者と利用者がともに乗り越えていくための1つの合意形成の手法であり、それらを実現していくための転換や調整機能を指します。

2024年4月1日には、改正障害者差別解消法が施行されるにあたり、旅館業者を含む民間事業者の合理的配慮提供が法的義務化されます。本案が民間事業者の合理的配慮提供の推進を阻む可能性は払拭できないと考えますが、政府の見解はいかがですか。

○国務大臣(加藤勝信君)
本法案による改正後の旅館業法第5条第1項第3号の規定は、いわゆる迷惑客への対応について、旅館業の営業者が無制限に対応を強いられた場合には、感染防止対策をはじめ本来提供すべきサービスが提供できず、旅館業法上求められる業務の遂行に支障を来すおそれがあることから設けるものであります。現時点でこの規定の委任を受けた厚生労働省令において、迷惑客の宿泊拒否事由に該当する具体的な事例として、宿泊サービスに従事する従業員を長時間にわたって拘束し、または従業員に対する威圧的な言動や暴力的行為をもって苦情の申出を行うこと等定めることを考えているところであります。

障害者差別解消法の合理的配慮が求められる事例については、改正後の旅館業法第5条第1項第3号に該当しないと考えており、第5号の他の各号に該当する場合を除き宿泊を拒否することはできないものと考えております。
また、本法案による旅館業法の改正後も、旅館業の営業者は改正障害者差別解消法の遵守する必要があり、合理的な配慮が求められることに変わりはなく、今般の改正は障害者差別解消法の合理的配慮を阻害するものではなく、それに沿った運営が求められているものと認識をしております。
また、本法案が成立した場合には、旅館、ホテルの現場で適切な対応が行われるよう、どのような事例が宿泊拒否事由にあたるかも含め、障がい者やハンセン病元患者等の団体などからも意見を伺いながら政省令や指針を策定したいと考えております。
障がいのある宿泊者に対し、その状態や障がい者等の特性に応じた適切なサービスが提供されるよう、本法案によって、旅館業の営業者の努力義務とされる従業員の研修等も活用した取組を進めていきたいと考えております。

○委員長(山田宏君)
速記を止めてください。

○委員長(山田宏君)
速記を起こしてください。

○天畠大輔君
「負担が過重」という文言が残る以上は、われわれ障がい者の懸念は全くもって払拭されないのです。大臣、文言の変更をいま一度検討していただけないでしょうか。

○国務大臣(加藤勝信君)
先ほども答弁させていただきました実施に伴う負担が過剰な要求については、この法案において、厚生労働省令で更に明確化、限定的にするということにさせていただいております。また、この省令の検討にあたっては、関係者のご意見等もしっかり踏まえながら進めさせていただきたいと考えております。

○委員長(山田宏君)
速記を止めてください。

○委員長(山田宏君)

速記を起こしてください。

○天畠大輔君
文言の変更について検討していただきたいです。代読お願いします。

障がい者が排除される危険性などは杞憂だ、と言う人がいるかもしれません。しかし、こんな事例があります。脳性麻痺で言語障がいのある方が店員と話そうとしたところ、発語に時間がかかり、泥酔していると誤解され、通報されてしまった。電動車椅子ユーザーで大柄な体型の障がい者が、介助者1人では移乗が難しいので、足を一緒に持つだけの少しのお手伝いを従業員に頼んだところ、宿泊を断られてしまった。
合理的配慮への理解が十分に進んでいるとは言えない中で、これらに似た事例が「長期間の拘束」と捉えられない保証がどこにあるでしょうか。迷惑客や感染症対策など様々なものを一緒くたにし、その結果、合理的配慮を阻みかねない状況をつくった政府の不注意さには、猛省を求めます。

さて、2020年、未知の感染症への恐れが社会を覆う中で、多くの旅館業者が宿泊療養施設として罹患者や医療従事者の療養、隔離生活を支えました。宿泊療養は旅館業の公共性を大いに発揮した好事例ではないでしょうか。確保部屋数が最大となった令和4年3月時点で宿泊療養施設として開設されていたホテル等は約7万4000室、宿泊療養者数は約1万9000名であったと伺っています。この宿泊療養の中で取り組まれた合理的配慮の事例と評価について、厚労省からお聞かせください。

○政府参考人(佐原康之君)
お答えいたします。
宿泊療養における障がい特性に応じた合理的配慮の提供例としては、たとえば遠隔手話サービスや電話リレーサービス、音声認識・筆談アプリの利用によるコミュニケーション支援や、振動、発光機能のある呼出しベルや警報ブザーの配備による緊急対応への備えといった取組があったものと承知をしております。厚生労働省としては、宿泊療養において、それぞれの障がい特性を踏まえ、適切な配慮がなされるよう、各自治体において取り組んでいただいたものと認識をしております。

○天畠大輔君
代読します。
宿泊療養の中でも様々な合理的配慮の取組があり、厚労省も適切だったと評価されているとのことです。
新型コロナウイルスの感染症の蔓延時には、それまでは健常者としてきた方が、ある日突然、未知の感染症に罹患し、特別な支援や助けを要する状況に陥ったわけです。コロナ禍の宿泊療養の取組は、「あらゆる人、とりわけ弱い立場にある人が路頭に迷うことがない」という旅館業法の立法精神を体現したものではなかったのでしょうか。世界各国を見渡しても、宿泊療養の事例は珍しいと聞きます。日本の旅館業の公共性の高さを政府がもっときちんと踏まえるならば、宿泊拒否の拡大という今回の法改正にはならなかったのではないでしょうか。
本法案における「過重な負担」と障害者差別解消法におけるそれは、ベクトルが全く逆であり、使うべきではないと改めて申し上げ、質疑を終わります。

〈反対討論〉
○天畠大輔君
れいわ新選組の天畠大輔です。合理的配慮を制限する本案に反対します。代読お願いします。

私は、生活衛生関係営業等の事業活動の継続に資する環境の整備を図るための旅館業法等の一部を改正する法律案に反対の立場から討論いたします。

反対する理由の第1は、宿泊拒否事由の中で、「負担が過重であって」という文言を用いているからです。具体的には、第5条3号において、客が旅館業者に対し「負担が過重であって他の客へのサービス提供を著しく阻害するおそれがあると厚生労働省令で定める要求を繰り返したとき」には、宿泊拒否できると定めています。障害者差別解消法では、「過重な負担」は、「負担が過重でないときは合理的な配慮をしなさい、または努めなさい」という文脈で使われています。その双方の「建設的な対話」に基づき、「無理なくできることを探ろうとする」関係づくりを要請しています。
しかし、旅館業法改正案はその逆で、宿泊拒否できる理由の一つとして使っていますし、「過重な負担」かどうかを判断する主体は事業者側です。さまざまな措置を講じたとしても、障害者差別解消法の文脈から離れた「過重な負担」という文言を含む本案が、民間事業者の合理的配慮提供を後退させる可能性は払拭できないと考えます。
さらに、法律の条文は、前例参照、つまりコピー・アンド・ペーストを繰り返して作られます。今後、さまざまな分野の法律で、差別解消法の文脈と切り離された、「負担が過重」といった文言が使われることになることも、非常に危惧します。
そもそも、この法改正の検討会は、感染症対策が議論される過程で、同時に「モンスタークレーマーへの対応」も俎上にのりました。その結果、「過重な負担」という文言が飛び出しました。しかし、本来、カスタマーハラスメント問題は、旅館業のみならず、優越的地位の濫用や日本の商習慣全体の中で議論すべき事柄であり、まったく別問題です。
これまで政府と当事者が何とかつくり上げてきた権利擁護の仕組みを、水泡に帰する今回の改正を見逃すことはできません。

反対する理由の第2は、体温測定などの感染症対策に正当な理由なく応じない場合に宿泊拒否できるようにする道が、まだ残されているからです。
この規定は、衆議院での修正の過程で本則からは外れました。しかし、附則第2条1項で、「感染症対策に正当な理由なく応じない場合の対応の在り方について検討し、所要の措置を講ずると定められています。この所要の措置では、宿泊拒否事由が講じられるか否かの検討も排除されてはいません。
しかし、感染症対策に協力しない宿泊者に必要な対応は、本来、宿泊拒否ではありません。地域の保健所や医療機関との連携の下で、救援、保護、見守りの観点からの新たな対応や支援がされるべきです。
社会の分断を深める宿泊拒否の拡大は、公である政府が先導すべきことではないと申し上げ、反対討論を終わります。