2023年3月9日 厚生労働委員会質疑「『制度の狭間』に取り残された1型糖尿病 今必要な施策とは」
○天畠大輔君
れいわ新選組の天畠大輔です。代読お願いします。
まず、事前通告してはおりませんが、優生保護法問題について1つだけ伺います。
仙台地裁での国の敗訴を受け、本日、全国弁護団の方々が厚労省を訪れ、全面解決に向けた総理との面会を求めています。国は、1日も早く上訴の動きをやめ、全面解決への話し合いを始めるべきではないでしょうか。加藤大臣、いかがですか。
○国務大臣(加藤勝信君)
仙台地裁の判決については、現在、その判決内容を踏まえて、政府内で関係省庁とも相談をさせていただいているところでございますので、その結果を踏まえて対応させていただきたいと考えております。
○委員長(山田宏君)
速記を止めてください。
○委員長(山田宏君)
速記を起こしてください。
○天畠大輔君
引き続き、追及します。本日は、1型糖尿病について質問します。代読お願いします。
1型糖尿病は、「制度の狭間」に取り残され、社会のセーフティーネットからこぼれ落ちている難病です。訴訟が起きるなど、社会問題化しています。
資料1をご覧ください。
昨年7月の1型糖尿病障害年金判決をご存じでしょうか。原告は、1型糖尿病患者の西田えみ子さん。障害基礎年金を不支給とされたのは不当だと訴えました。東京地裁は、国の不支給処分を違法とし、障害等級2級相当額の支給を命じる判決を言い渡しました。
ほかにも、大阪などでは、2016年の糖尿病認定基準改正により、障害基礎年金の支給を突然打ち切られた患者たちがいます。国からは理由も示されませんでした。翌年には、そのうち9人が不支給処分の取消しを求め、国に対して集団訴訟を起こしました。現在も大阪高裁で闘いが続いています。
1型糖尿病は、日本における小児期発症患者の年間発症率が10万人に1.5~2.5人、糖尿病全体のうちの僅か数%にすぎず、よく知られている糖尿病とは異なります。血糖値を下げるホルモンであるインスリンを体内で作れなくなる病気です。ウイルス感染などをきっかけに、膵臓のインスリン生産細胞が破壊されることで発病します。人は、インスリンにより体に糖分を取り込めなければ生きていくことができません。1型糖尿病は、インスリン製剤を外部から補充しなければ、確実に、数日で死に至る、緊急性のある難病だということです。
資料2をご覧ください。
1型糖尿病については、2014年、衆議院厚生労働委員会で審議されたことがあります。重徳和彦委員が1型糖尿病について質問しているのに、当時の田村厚労大臣は、「糖尿病といえばまずは予防だ」と答弁しました。1型糖尿病の発症は、患者自身の生活習慣とは全く関係ありませんが、病気への偏見や無理解で、患者は就学・就労にあたり、困難に直面しています。このままでは、国が糖尿病は自己責任という偏見を助長してしまうことになります。
加藤大臣、この場で1型糖尿病への正しい理解を改めて示してください。端的にご答弁願います。
○国務大臣(加藤勝信君)
ご指摘の答弁、田村元大臣のご答弁については、疾病対策についての様々な議論の中での答弁というふうに認識をしております。
その上で、今委員からのご質問の中にもかなり中身について言及があったというふうに思いますが、1型糖尿病は、自己免疫学的な要因等で膵臓の細胞が破壊されて発症し、多くの場合、生命維持のためのインスリン治療が必要となるものであります。生活習慣病の1つである2型糖尿病とは発症のメカニズムや治療法が異なるものと認識をしております。
○天畠大輔君
1型糖尿病は、幼少期・学齢期に発症することが多いのも特徴です。保護者は、発症してから毎日食事量、運動量、体調からインスリン量を調整し、低血糖のときはすぐに血糖値が上がるブドウ糖などを食べさせ、高血糖のときはインスリンを注射し、子供の血糖コントロールを行います。それは夜間も休みなく続くため、多くの親は慢性的な睡眠不足です。加えて、ぜいたくしたんでしょう、甘い物を食べ過ぎたんでしょうという周囲の無理解に心を痛め、心身共につらい思いをしているご家庭も多くあります。一方、1型糖尿病の発症率が高い北欧では、小学校低学年でインスリンを打っている人との付き合い方を学ぶ授業があるそうです。
糖尿病を生活習慣病とひとくくりに表現するのではなく、1型糖尿病は決して予防できる疾病ではないことや、病気を持つ仲間を理解し、支え合いながら生活していくことが当たり前になるような、正しい病気への普及啓発がもっと必要ではありませんか。厚労省、お答えください。
○政府参考人(佐原康之君)
お答えいたします。厚生労働省としては、1型糖尿病に関する正しい知識の普及啓発は、ご指摘のように重要であると認識しております。たとえば、厚生労働省の健康情報提供サイトであるe―ヘルスネットにおきまして、1型糖尿病と2型糖尿病の違いを示すなど、1型糖尿病の正しい知識の普及啓発に取り組んでおりまして、引き続き取組を進めてまいりたいと考えております。
○委員長(山田宏君)
速記を止めてください。
○委員長(山田宏君)
速記を起こしてください。
○天畠大輔君
国が率先して、正しい理解を伝えるべきです。代読お願いします。
啓発活動は、1型糖尿病だけでなく、様々な病気や障がいを持つ当事者とその家族にとって、大きな心の支えになるはずです。
続いて、1型糖尿病における障害基礎年金の認定基準について質問します。
先ほどの西田さんの訴訟では、困難を負う本人が裁判という大きな負担を負わなければ、本来支給されるべき障害基礎年金が支給されない、という不合理な差別の現状がつまびらかにされました。1型糖尿病によって就労や日常生活に支障が出ているのに、なぜ障害基礎年金が支給されていなかったのか。それは、「生活上の困難さ」を測る指標の不明確さが原因です。
1型糖尿病は内部障がいです。低血糖も高血糖も防ぐために、一生、365日24時間、血糖コントロールという医療行為が必要です。どうしても避けられない血糖値の乱高下に伴う異様な疲労感、吐き気、目まい、痛みは目に見えず、数字で表すこともできません。1型糖尿病患者は皆、「生活上の困難さ」を切実に訴えています。
夜間低血糖による明け方の低血糖昏睡は、対処できなければ死に至ります。
やっと起き上がっても、低血糖明けの体では家事もままならず、掃除や洗濯が週に一回もできないこともあります。
仕事は、遅刻、欠席が増えてしまうため就労が難しい。
「病気が治ったら来てください」と採用担当者に門前払いされる。
職場で低血糖発作を起こすたびに解雇され、低所得から抜け出せない。
職場での意識喪失は解雇のおそれがあるため、やむなく血糖を高く維持せざるを得ず、合併症の眼底出血を引き起こす。
医療費が払えず、治療や検査を控え、命を脅かされる。
たとえ周りからは元気に見えたとしても、日々「生活上の困難さ」に苦しんでいます。
西田さんの場合は、弁護団とともに4年もかけて、1型糖尿病により家事ができないこと、仕事がままならないことなどの証拠を集め、言葉を尽くすことで裁判所にやっと通じました。
国は、障害基礎年金の認定の段階で、「生活上の困難さ」を含めた当事者の生活実態を十分反映できるように、認定の仕組みを早急に見直すべきです。
資料3をご覧ください。
現在、精神障害の認定基準のフォーマットでは、日常生活状況の項目が多い上に認定に直結します。一方で、糖尿病のフォーマットは、現症時の日常生活活動能力及び労働能力の項目のみです。自己申告の「病歴・就労状況等申立書」では項目が少なく、参考程度にしかなりません。「腎疾患、肝疾患、糖尿病の障害用の診断書」の記載要項を、精神障害と同様に、「生活上の困難さ」をより考慮できる仕組みを検討すべきです。加藤大臣、いかがですか。
○政府参考人(宮本直樹君)
お答え申し上げます。
1型糖尿病の障害年金の申請に当たっては、糖尿病申請様式の中にある一般状態区分表に、主治医が本人の問診の結果等も踏まえ患者の日常生活の制限の状況等を記載することとしているほか、補足資料の「病歴・就労状況等申立書」には、着替え、食事、トイレなどの日常生活の状況について本人に直接記入していただくこととしており、当事者の日常生活の状況等については診断書の記載の内容や本人の申立てにより把握することとなっております。
その上で、本人の状況をより一層正しく伝える方法については、今後とも様々なご意見を伺い、検討してまいりたいと考えております。
○天畠大輔君
それだけでは不十分です。代読をお願いします。
認定基準や医師の診断書だけによる現在の審査は、限界があります。たとえば、2015年、厚労省の糖尿病の障害年金に関する専門家会合では、出席した糖尿病認定医が「医学的数値の背景にどういう問題があるのかを把握することは困難」と吐露していました。現状では、認定の根拠が医学的数値と5択しかない一般状態区分表しかないことが背景にあります。
やはり、生活実態が正しく伝わる仕組みに変えるべきではないでしょうか。自己申告の「生活上の困難さ」は、参考程度ではなく、認定の判断に考慮されるようにすべきだと重ねて申し上げます。
さて、認定基準見直しの検討にあたっては専門家会合が開かれますが、2015年のメンバーは6人全員が医師でした。ほかの疾病の専門家会合もほとんど医師で構成されています。1型糖尿病のように、医学的な視点だけでは、症状や生活実態の把握が不十分な疾病や障がいもあります。どのような社会的障壁が当事者の日常生活を困難にしているのかという社会モデルの視点も必要です。障害者権利条約に詳しい弁護士や、当事者の生活実態に詳しい社会福祉士も参加すべきだと考えます。
当事者とこれらの専門家が参画した検討の場を設けてください。加藤大臣、いかがですか。
○国務大臣(加藤勝信君)
平成28年の糖尿病に関する障害認定基準の見直しにあたっての専門家会合は、最新の医学的知見を反映させる観点から糖尿病治療を専門とする医師6名で構成され、いくつかの団体からヒアリングを行いつつ、改正内容を検討したところと承知をしております。専門家会合は基準見直しの都度構成することとしており、委員の選任は見直し内容に応じて都度選任をしているところでございます。
現在直ちに専門家会合を立ち上げるという状況ではございませんが、糖尿病に関する障害認定基準の見直しを行うにあたっては、障がい者の権利の擁護や、社会モデルに詳しい方の意見も踏まえられるよう、専門家会合での議論の仕方も含めて、適切に検討していきたいと考えております。
○委員長(山田宏君)
速記を止めてください。
○委員長(山田宏君)
速記を起こしてください。
○天畠大輔君
意見を聞くだけでなく、参画も視野に入れてください。代読お願いします。
次に、1型糖尿病患者への医療費補助について伺います。
1型糖尿病患者の困難のうち、とりわけ大きな部分を占めるのが多額の医療費負担です。
資料4をご覧ください。
1型糖尿病は、一生涯、毎月2万から3万円程度の医療費がかかります。血糖測定器や医療器具の購入、定期健診は一生やめることはできません。さらに、合併症を併発していれば、それ以上の医療費がかかります。
日本IDDMネットワークの試算によると、小児期発症の1型糖尿病患者が一生涯に払う医療費は1000万円以上です。20歳未満の患者には小児慢性特定疾病医療費助成や特別児童扶養手当がありますが、成人への医療費助成は何もありません。
1型糖尿病は、大変な「生活上の困難さ」があり、死の危険と隣り合わせで緊急性がある難病にもかかわらず、国は2018年の指定難病検討委員会で指定難病の要件を満たさないと判断しました。2型糖尿病との病態が不明瞭のため客観的な判断基準がないことが理由とされています。ですが、指定難病とそれ以外の難病で、当事者にとって症状のつらさに何ら変わりはないはずです。
厚労省は、成人の1型糖尿病への医療費助成について、1日も早く対応すべきではありませんか。指定難病への追加について何度も議論に上っていることは承知していますが、余りにも当事者の経済的負担が大き過ぎます。
たとえば、医療保険制度における高額療養費制度の特例に1型糖尿病を追加するのはどうでしょうか。治療法が分からず、治療に一生掛かり、高額であり続けることが見込まれる疾病を特例と定め、自己負担限度額月1万円としています。現在対象は3疾病に限定されていますが、1型糖尿病はこの制度の趣旨に合致しています。今後、高額療養費制度の特例に1型糖尿病の追加を検討すべきではないですか。加藤大臣の考えをお聞かせください。
○国務大臣(加藤勝信君)
1型糖尿病は、多くの場合、生命維持のために生涯にわたるインスリン治療が必要であり、それに伴って長期にわたり医療品の負担が続く疾患であると認識をしております。こうした医療費の負担については、医療保険の高額療養費制度によって軽減が図っているところであります。
また、高額療養費制度における高額長期疾病の仕組みについては、著しく高額な治療を長期間、ほとんど一生の間にわたって必要とする疾病について特例的に患者の自己負担限度額を月額1万円としており、現在は、人工腎臓を実施している慢性腎不全など、3つの疾病のみが対象とされているところでございます。現状において、たとえば慢性腎不全では1月当たりの総医療費は約40万とされて、高額療養費の上限をはるかに上回っているということ、医療費で3割負担とすれば、その上限額を上回るという水準になっているところであります。
この対象経費を拡大することについては、疾病で給付の手厚さを区別しないことが医療保険の原則とされており、公平性の観点からどう考えていくのか、また、厳しい医療保険財政を勘案すると、保険者等の関係者の合意が得られるのかといった課題があることから、慎重な検討が必要であるというふうに考えているところでございます。
○委員長(山田宏君)
速記を止めてください。
○委員長(山田宏君)
速記を起こしてください。
○天畠大輔君
今、大臣は1型糖尿病の医療費負担が大きいと認めました。なのに十分に手当てしないのは怒りを覚えます。代読お願いします。
1型糖尿病は様々な制度からこぼれ落ちています。
難病法では指定難病の対象になりません。
障害者総合支援法では、障害者手帳がなく指定難病でもないため対象ではありません。
障害者雇用促進法では法定雇用率の対象ではありません。
一方、海外に目を向けると、オーストラリアでは、NDSS、ナショナル・ダイアビーティース・サービシーズ・スキームというサービスがあり、オーストラリア全土の糖尿病患者に対して注射針や血糖測定器などへの医療費助成が充実しています。
社会保障の差は歴然です。日本は合併症の有無で線引きしがちですが、海外のように合併症にならないようにするための努力を見るべきです。医療費助成の制度を見直すよう、改めて求めます。
さて、1型糖尿病の患者会の記事によると、過去には、1型糖尿病患者が自殺する事件が複数起こっています。医療費などの重い負担を危惧し、また将来を悲観してのことだったそうです。今の医療では治らない体、どうしようもない将来への不安、14歳で障がいを負った私には痛いほど分かります。ですが、社会に1型糖尿病があっても普通に暮らせる仕組みがあれば、将来を悲観することはなかったのです。
障害基礎年金の認定基準見直しにも医療費助成にも検討に時間がかかるというならば、せめて早急に雇用支援が必要ではないでしょうか。
1型糖尿病は、障害者雇用促進法における配慮の必要な障がい者ではあっても、法定雇用率の対象にはなっていません。障害者手帳を持っていないからです。雇用側には1型糖尿病患者を積極的に雇うインセンティブがありません。たとえば、1型糖尿病患者は、仕事中に低血糖発作が起きると対処のため仕事を中断しないといけません。しかし、この体調不良は、適切な対処を行えば限られた時間で終わります。病気への正しい理解と合理的配慮があれば就労は十分可能です。
誰もが働きやすい環境整備の足がかりとして、1型糖尿病などの疾病や障がいによって長期にわたり働くことに困難を抱え、かつ現行法では合理的配慮の対象にしかなっていない配慮の必要な障がい者についても、法定雇用率の対象とするよう検討してください。加藤大臣、いかがですか。
○国務大臣(加藤勝信君)
事業主における合理的配慮の提供の範囲については、障害者雇用促進法において合理的配慮の提供の対象となっているのは、障害者手帳所持者に限らず心身の機能の障がいがあり、長期にわたり職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な場合に該当する者も含まれております。就職登録時に自己申告と併せ、医師の診断書や障害福祉サービス受給者証等によって合理的配慮の対象であることを確認をしていただく、こういった仕組みで対応させていただいているところでございます。
その上で、障害者雇用率制度における対象障がい者の範囲については、公平性や一律性を担保する観点から、原則、障害者手帳を所持する方としているところでございます。
ご指摘の1型糖尿病患者の方、また発達障がいや難病患者の方など、手帳を所持していない方の雇用率制度における取扱いについては、個人の状況によって就労困難性も異なることから一律に対象とすることは難しいと考えているところでありますが、現在、就労困難性の判断のあり方に係る調査研究を進めており、その結果も踏まえ、適切に検討していきたいと考えております。
○天畠大輔君
検討してください。代読お願いします。
本日、私は1型糖尿病だけの話をしたのではありません。「誰1人取り残さない」を政権の旗印に掲げながら、「制度の狭間」に取り残された人たちには「自分たちで頑張って」と丸投げする政府の姿勢は、あまりにも理不尽です。
私は、個別具体的な事例を正面から受け止め、日本の構造的な問題である「制度の狭間」を明るみに出すことで社会保障制度が前に進むと信じています。「制度の狭間」で苦しむ方々への支援を進めるにあたって、大臣の意気込みを、最後にお聞かせください。
○国務大臣(加藤勝信君)
今日もいろいろご質問いただきました。また、実際、その社会保障制度を進めていく中で、あるいは時代時代の中で様々な課題もご指摘をいただいているところでございます。
もちろん、これまで制度をつくってきた趣旨、あるいはその時点時点における他の、様々な、言わば公平等々を踏まえながら、今後とも、障がいがあってもこうした社会の中でご本人の希望に応じて働いていただける、あるいは活躍していただいている、あるいは生活していただける、そうした環境をつくるべく努力をしていきたいと考えています。
○委員長(山田宏君)
速記を止めてください。
○委員長(山田宏君)
速記を起こしてください。
○天畠大輔君
「誰もが生きていたいと思える社会」を目指して、今後も追及します。
質疑を終わります。