「在宅でのコロナ陽性。障がい者のヘルパー派遣が止められないために」厚労委閉会中審査での初質疑解説

質疑の全文はこちらをご覧ください。

「速記止め」暫定措置での初質疑

2022年8月25日、天畠大輔の国会初質疑がありました。

7月下旬に参議院議員になった天畠にとっては、やや早めのタイミングでの初質疑でした。

というのも、質疑冒頭で発言したとおり、質疑時間の延長要望について、まだ結論が出ていませんでした。このホームページのプロフィールでも詳しく書いているとおり、天畠は「あ、か、さ、た、な話法」という方法で、コミュニケーションをとっています。他の厚労委所属の議員の方々と同じように質疑をするためには、合理的配慮(※1)として時間延長が必要です。

要望を出していましたが、時間がないので暫定措置で今回は質疑することになりました。暫定措置とは、当初予定になかった発言をする場合には「速記止め」(想定外の事態が起こったときに行われる措置で、質疑に立つ会派に割り当てられた質疑時間をカウントしない)をすることで、「あ、か、さ、た、な話法」を行える、というものです。

今も交渉中なので、天畠のコミュニケーション方法と質疑については、日を改めて報告します。

※1 合理的配慮:障がい者の人権が健常者と同じように保障されるとともに、教育や就業、その他社会生活において平等に参加できるよう、それぞれの障害特性や困りごとに合わせておこなわれる調整のこと。障がい者のための特別配慮を求めるのではなく、健常者が日常で意識していないけれど享受している権利を、障害者にも保障し、健常者と同じプラットフォームに立てるようにするもの。日本の障害者差別解消法は、行政・学校・企業などの事業者に、この合理的配慮を可能な限り提供するよう定めている。

閉会中審査とは?

さて、タイトルにもある「閉会中審査」とは何でしょうか。

国会は1年中開会しているわけではありません。例年1~6月の通常国会、10~12月の臨時国会、国政選挙後の特別国会の期間以外は、質疑が行われない「閉会中」です。

しかし閉会中であっても、国会で議論すべき事項がある場合には、委員会が開かれることがあります。今回は新型コロナウイルス感染症が感染拡大していたことなどから、厚生労働委員会が開かれました。

なお、厚生労働委員会は、医療、労働、福祉など幅広い範囲を担当する委員会です。

安心して自宅療養・自宅待機できない在宅の重度障がい者

新型コロナウイルス感染が広がり、既に2年半がたちましたが、天畠をはじめ、重度身体障がい者が陽性者や濃厚接触者になったときに安心して療養できる体制ができているとは言えません。ヘルパーを伴って入院できない事例が多発しているなど、問題はたくさんありますが、質疑時間が10分と短いため、今回は自宅療養、自宅待機に絞って質疑しました。

質疑の冒頭では天畠自身が濃厚接触者となった時の経験、また2022年7月に東京都内で起こったヘルパーの派遣停止事例を紹介しましたが、同じような事例はコロナ禍のあいだ、当事者団体などに多く寄せられてきました。

天畠の質問に対する答弁によると、こういった事態に対して国は、調査による実態把握はしていません。一方で、「障がい福祉サービスは利用者の方々やその家族の生活を継続する上で重要なもの。特に訪問系サービスは、利用者がコロナ陽性や濃厚接触であっても、提供されなければいけない」との立場です。おととしと昨年には、都道府県に対して「支援に遺漏なきよう事業者への周知」をお願いする「事務連絡」を出してきました。

※2020年事務連絡はこちら

※2021年事務連絡はこちら

「事務連絡」は、国の省庁が自治体や事業者などに向けて何かを求めるとき、推奨するときなどに出す文書です。法的な拘束力はありません。省庁からは日々たくさんの「事務連絡」が出ていますし、強制力はないので、すべての対象者がその通りに実行するとは限りません。だから、今もヘルパー派遣を断られる障がい当事者が後を絶ちません。

地方創生臨時交付金の活用

そこで天畠の質疑では、「行政が最後のセーフティーネットとなり、ヘルパー派遣の調整機能を果たすこと」、またそのために利用できる「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金を自治体に周知徹底していくこと」を訴えました。

たとえば滋賀県では2020年5月に「新型コロナウイルス感染症にかかる在宅生活困難障害者等支援事業」を始めました。障がい者がコロナ陽性や濃厚接触者になり、ヘルパー派遣を断られるなどの緊急時に、県と各地域の自立支援協議会が支援者などを確保しています。同県は感染拡大初期の2020年、「コロナに感染が起こったとき、家に一人取り残されるのは誰か」との視点から、親が感染した子どもや、在宅で一人暮らしする重度障がい者に着目したそうです。

また東京都新宿区は令和3年12月から、同様の目的で事業を始め、自宅療養、自宅待機中の在宅障がい者へのヘルパー派遣などを行っています。

この滋賀県や新宿区が事業実施のために利用しているのが、国の「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」です。自治体が年に何度か計画を国に提出したうえで、コロナ感染対策に関する幅広い事業に使うもので、予算規模は兆単位にのぼります。

天畠が「滋賀県や新宿区のような自治体の取り組みに対し、国は財政的支援を行うべき。新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金を周知すべき」と訴えたところ、加藤厚労大臣は「こうした支援を行うために、厚生労働省のサービス継続支援事業、また内閣府の交付金も活用いただいて、地域の実情に応じた取組を進めていただきたいと思っております。厚労省としても、これらの事業等の活用も含めて、先ほどの先進的な事例等も含めまして、必要な周知にしっかりと努めさせていただきたいと思います」と、一定前向きの姿勢を示しました。

結果的に、厚労省は9月7日、各自治体の障害福祉局宛てに、事務連絡を発出。コロナ感染拡大などの緊急時でも、利用者に必要なサービスが継続的に提供されるよう、事業所への応援職員の派遣調整など、人員確保のための支援をするよう協力を求める内容です。そして具体的な方法として、先ほどの滋賀県の事例や、新たに愛媛県の事例を提示し、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金にも言及しています。

また、感染者等が発生した事業者での消毒や清掃に係る費用、感染防止のために追加的な業務が必要となった場合の割増し賃金、人材確保のための費用などに充てられる「障がい福祉事業所等に対するサービス継続支援事業」も紹介しています。

根本にあるのはヘルパー不足

ただもちろん、事務連絡が出ればすべてが解決するわけではありません。法的拘束力はないので、全国すべての自治体がいつでもヘルパーを派遣できる体制を作るわけではありません。

また天畠のように、本人に聞かないと動かない箇所が分からなかったり、下手な動かし方をすると身体を痛めてしまったりと、個別ニーズがたくさんある障がい者もいます。そういった場合は、緊急時に派遣された、いつもと違うヘルパーでは対応できない場合もあります。

当事者にとって、平常時でもコロナ禍でも、最も必要なのはヘルパー不足解消です。「ヘルパーが十分足りている」という事業者はほとんどありません。国もそのことは認識しており、段階的な処遇改善は行ってきました。しかし、コロナ禍で利用者やヘルパーが感染した場合、緊急事態に陥ることは目に見えていたにもかかわらず、国はヘルパー不足に対しては特にこれと言った施策は打ち出してきませんでした。

障がい者が地域で暮らすにあたって十分なヘルパーがいる状態をどのように作っていけるのか、引き続き取り組みを進めていきます。

(文責:秘書 篠田恵)