【2024年通常国会ハイライト②】障がい者の権利を見えないところで侵害している法律等に問題提起しました

法律は、本当は私たちの生活に非常に身近なものですが、具体的な施策の方向性を定める「●●基本法」や、特別な時にだけ関係する法律は、その影響は見えにくく、気づきにくいものです。2024年通常国会では、見えにくくても重要な論点として、障がい者施策の理念法である障害者基本法改正と、障がいを理由とする法令上の「欠格条項」、そして各自治体の条例・規則に残る「制限条項」について問題提起しました。

障害者基本法第1条に「権利条約の理念にのっとり」を

障害者基本法は、2014年の障害者権利条約批准に向けて、2011年に改正された理念法です。改正から10年以上が経ちますが、一度も見直されていません。障がい当事者団体から、法全体の改正を求める声が、日に日に強まっています。

それは、2024年3月6日の参議院予算委員会に参考人招致された日本障害者協議会(JD)の藤井克徳代表が述べたように、「(国連の)総括所見をいかに生かしていくのか、今後官民挙げて考えていくべきテーマ」だからです。2022年8月、国連の障害者権利委員会で、日本の障害者権利条約の推進状況、実施状況が審査を受けました。この審査を受けて、国連による総括所見(≒勧告)が同年9月に公表されました。次回の条約審査に向けた日本側の定期報告締切は2028年2月で、国連の権利委員会はその1年前までに事前質問事項(対日本政府)を作りますから、総括所見という国際社会からの宿題に取り組める期間は、実質3年を切っています。

各分野で総括所見の指摘を踏まえた政策を進めていくためにも、おおもとの理念法である障害者基本法に、権利条約を重視する記述を入れ込むことは重要です。そこで3月8日の予算委員会質疑では、法の目的条項である第1条に「障害者権利条約の理念にのっとり」といったような文言を盛り込むべきとの提起をメインにしました。

天畠:(前略)総括所見を誠実に受け止めるならば、今からでも、障害者基本法も第1条に、たとえば、「障害者の権利に関する条約の精神にのっとり」などと入れるべきではないですか。

加藤鮎子障害者施策担当大臣:お答え申し上げます。障害者権利条約の批准に向けた法整備として行われた平成23年の障害者基本法の改正においては、障がい当事者を構成員として含む障害者制度改革推進会議における議論の結果等を踏まえ、目的規定を含め、同条約の精神にのっとり必要な改正が行われたものと認識をしてございます。


たとえば、障害者権利条約の第1条には、「全ての障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、保護し、及び確保すること」や、「障害者の固有の尊厳の尊重を促進すること」が目的として規定をされています。


平成23年の障害者基本法の改正におきましては、こうした障害者権利条約の規定を踏まえ、第1条の目的において、「全ての国民が、障害の有無にかかわらず、ひとしく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものである」という理念を規定するなどの改正がなされたものと認識をしております。

その他の障害者基本法の規定についても、障害者権利条約の批准に向けた法整備として改正された平成23年の改正により、障害者権利条約の精神にのっとったものに改正されたものと認識をしてございます。

天畠:答えになっていません。代読お願いします。
平成23年の改正は、障害者権利条約を批准する前の改正でした。私が伺ったのは、既に条約批准から10年がたった今、第1条に書き込むべきだということです。「条約の趣旨を踏まえているからよい」というのは、不誠実ではないですか。加藤大臣、もう一度ご答弁ください。

加藤鮎子障害者施策担当大臣:お答え申し上げます。条約批准に向けた法整備として改正された平成23年の障害者基本法の改正により、同法の目的規定を含めて障害者権利条約の精神にのっとったものに改正されていると認識をしてございます。

2024年3月6日参議院予算委員会質疑

権利条約との調和を

参考人として意見陳述する藤井克徳日本障害者協議会(JD)代表

加藤担当大臣の答弁にもあるように、政府は第1条に権利条約の理念を入れ込むことに後ろ向きです。しかし、藤井克徳参考人(日本障害者協議会代表)が当日おっしゃったように、権利条約をベースとし、また長年解決しない障がい分野の課題に切り込むためには、基本法にその意思を書き込むことが重要です。

藤井参考人:障害者基本法が改正されて13年がたちます。この間、障害分野をめぐっての状況は随分変わりました。変化を踏まえて、今度の改正において少なくとも次の2点を留意点として挙げておきます。


一つは、2014年に批准された障害者基本法、あっ、すみません、障害者権利条約、これに基づくことです。権利条約と調和するような改正作業でなければいけないと思います。法律の構造、すなわち章立ても見直しが必要かもしれません。

二つ目、遅れているところをやっぱり引き上げることです。総括所見の提起したことに加えて、最近問題になっています優生保護法問題の対処、また、女性障がい者の複合差別問題の解消、本格的な所得保障制度の確立、過度な過重な家族負担からの解放、こういったことが挙げられます。

所得保障でいうならば、38年前の障害基礎年金制度の創設以来、実質的に金額の水準は変わっていません、変わってはいません。これらの好転につながるようじゃなければ本当の改正とは言いません。このまま推移しますと、この国に大規模な置き去り集団が生まれかねません。障害者基本法には、これを食い止める役割があると思います。

2024年3月6日参議院予算委員会質疑

しかし日本政府は、まず2023年度~2027年度の「第5次障害者基本計画」初年度の実施状況を障害者政策委員会で調査審議する、と国内施策の都合を優先しており、総括所見やそれを受けた当事者からの意見のペースに合わせた検討を行う姿勢は見えません。一昨年の総括所見公表後、障害者政策委員会でも基本法改正や総括所見に照らした議論をすべきとの声が複数の委員から上がっていますが、なかなかその検討には至っていません。基本法改正をやるべき理由はたくさんあります。総括所見を踏まえた政策前進には、政治のリーダーシップが必要です。今後も当事者団体などと連携して、改正を働きかけていきます。

障がい者を社会から締め出す「欠格条項」

障がいを理由とする「欠格条項」をご存知でしょうか。国家資格などを定めた法令において、「特定の障がいがあると絶対に資格を取れない」という規定が絶対的欠格条項、「できないかもしれないからチェックする」規定が相対的欠格条項です。

絶対的欠格条項は、運転免許の視力要件などを除き、障がい当事者らの運動により、ほぼなくなっています。しかし、絶対・相対欠格条項がある法令の数は2023年時点で699本と、過去最多です。特に精神の機能の障がいに対する欠格条項が急増しており、2016年に75だったものが2023年には276と3.7倍です。急増の理由は質疑をご覧ください。

欠格条項の問題は非常に見えにくいですが、確実に障がい当事者に大きな不安や調整コストを課し、進路を制限しています。資格取得のためには大抵、費用をかけて一定期間学業をします。自分がもし、試験合格後に免許申請までしたのに、「あなたの障がいを精査した結果、免許交付はできません」と言われたら、どうでしょうか。またそう言われる可能性を抱えつつ学業をする不安は、どれほどのものでしょうか。学業の途中で相対的欠格条項の対象になる障がいを持つこともあり得ます。

相対的欠格条項は間接的に、資格取得のための入学時や、免許取得試験時の合理的配慮の普及を押しとどめたり、より悪い場合には指導者が「結局働けないからこの資格をあきらめろ」とよかれと思って将来を諦めさせる助言をしてしまう根拠にもなりえます。質疑では、社会福祉士受験に苦労した障がい当事者のコメントを紹介しました。

障がいがあってもなくても、福祉専門職として体調管理は必須条件ですし、障がいがあることは本人が一番分かっていることで、当然そのノウハウを持って仕事をすることが求められます、そして、どういうふうにやれば職務が遂行できるかどうかを考える方が、相対的欠格事由を設けるより大事なのではないかと心から思います。

2024年5月9日参議院厚生労働委員会質疑

しかし、障がい者施策を担当する内閣府は「各省庁がしっかり取り組んでいる」という態度です。今後、障害者政策委員会などの場で各省庁から、欠格条項に関わらず第5次障害者基本計画の取り組み報告がされますから、欠格条項についてもきちんと報告していただき、実りある議論ができるよう、働きかけていきます。

天畠:(前略)障害者基本計画を取りまとめる内閣府に伺います。この間の相対的欠格条項の新設、増加の事実を、政府として把握していますか。

古賀友一郎内閣府担当政務官:(前略)第5次障害者基本計画におきましては、いわゆるこの相対的欠格条項について、各制度の趣旨や技術の進展、社会情勢の変化、障がい者やその他関係者の意見等を踏まえまして、真に必要な規定か検証をして、必要に応じて見直しを行うと、このように記載をされておりまして、各制度を所管する省庁において適切に対応されるものと、このように認識をいたしております。


この記載を踏まえた関係省庁の対応状況を含めまして、この第5次障害者基本計画の実施状況につきましては、障害者政策委員会で必要な監視を行っていただくものと、このように認識をいたしております。

天畠:代読します。基本計画に書かれているからこそ、差別解消法を所管する内閣府が把握すべきではないでしょうか。(後略)

2024年4月4日参議院厚生労働委員会質疑

無知による差別――自治体の「制限条項」

今国会で取り上げた中で、もっとも問題が見えにくく、でも根深いのは「制限条項」でした。制限条項とは、障がいを理由に、傍聴や入場、参加を制限する規定のことです。たとえば「精神に異常があると認められる者には、傍聴を許さない」といったものです。精神障がいの当事者団体が調査したところ、今年1月31日時点で少なくとも333の制限条項が全国の自治体に残っていました。

この問題は50年以上前から指摘が続いており、その時々で所管官庁が通知を出すなどして、徐々に改正がされてきました。しかし、全国や県単位といった包括的、網羅的な調査は公的機関はどこも行ってこなかったため、障害者差別解消法が出来た今もなお、相当に差別的な条項が残っています。質疑では、地方自治を所管する総務省と、障害者差別解消法を所管する内閣府に対応をただしました。

天畠:ある市議会の事務局は、「合併前にあった条文が合併後もそのまま残ったのではないか、これまで議論する機会がなかった」と話しています。当事者団体の問合せによると、同じように、「存続している理由は特になく、制定後、見直す機会がなかったため」といった答えが多かったといいます。


それぞれの自治体にとっては「うっかりミス」かもしれませんが、俯瞰すれば、これは無知による差別です。当事者からすれば、常に差別を浴び続けています。そして、障害者差別解消法の意義が希薄になっているということです。

制限条項は、教育委員会、農業委員会、公園、資料館、文化会館、プール、県警など幅広い機関に残っており、多くの中央省庁が関係します。省庁横断で連携して、政府として制限条項の調査、検証、自治体への働きかけをすべきではないですか。総務省、お答えください。

馬場成志総務省副大臣:お答えします。障害者差別解消法第7条において、行政機関等は障がいを理由とする差別を禁止されております。同法については内閣府が所管しておりますが、各省庁においても所管分野について同法を踏まえて必要な対応をしているものと承知をしておるところであります。

総務省においては、たとえば、地方議会制度を所管する立場から、一部の議会の傍聴規則等において精神に異常があると認められる者等の傍聴を認めない旨を規定している例が複数あることを把握し、助言の必要性があると判断したことから、令和5年9月に、このような規定がある場合には見直しを行うよう地方公共団体に周知をしたところであります。

委員ご指摘の点について、それぞれの行政分野を所管する各省庁を含めた政府全体としての取組が重要でありますので、総務省としてもその取組に連携して必要な対応をしてまいります。

天畠:内閣府はいかがですか。省庁横断での連携をすべきではないですか。通告なしですが、お答えください。

古賀友一郎内閣府担当政務官:先ほども触れたところでありますが、個別の分野ごとにその所管省庁あるいは自治体が必要性を踏まえて適切に判断して対応していくと、このように認識しておりますけれども、この障害者施策の推進につきましては、関係省庁連携して、政府一体となって取り組んでいるところでございまして、内閣府といたしましても、引き続き、関係省庁と必要な連携を図りながら取り組んでいきたいと、このように考えております。

2024年4月4日参議院厚生労働委員会質疑

読み方が難しいですが、結局、現時点ではどこの官庁も主体的には動かないという答弁です。引き続き調査、検証、自治体への働きかけを求めていきます。(文責:秘書 篠田恵)