【2023年通常国会ハイライト③】差別防止の実効性を高めたゲノム医療法案修正案を提出しました

より良い遺伝子を上位に置いてしまわないか?

近年、私たち人間のもつ遺伝情報に基づくゲノム医療が、がんなどに用いられています。ゲノム医療を望む誰もがその利益を等しく享受できる環境整備は、とても重要です。一方で、遺伝情報・ゲノム情報の取り扱いについては、細心の注意を払う必要があります。

そこで超党派の「適切な遺伝医療を進めるための社会的環境の整備を目指す議員連盟」がこの間、議員立法でゲノム医療に関する法整備を進め、今年の通常国会に法案を提出しました。

ゲノム医療が日進月歩の中で、基本法にあたるものを早く整備することの必要性は天畠も重々承知していましたが、やはり障がい当事者としては、ゲノム情報に基づく差別防止の実効性が本当に担保されるのか、また、より良い遺伝子を上位に置き、障がいや難病のある遺伝子を劣位に置く優生思想を助長するのではないか、という懸念がありました。

というのもこの法案には、差別の禁止や情報漏洩問題に対する具体的な禁止規定が設けられていません。さらに、この法案で推進する「ゲノム医療」の対象には、生命倫理の根幹にかかわる個人のもつ生殖細胞(卵子、精子)や胎児が含まれうるにもかかわらず、具体的な倫理規定や罰則規定も設けられていません。そこでゲノム情報の漏洩や目的外使用を規制し、差別を禁止・防止する法整備に向けて、以下のポイントを盛り込みました。また修正案を提出する背景について、れいわ新選組として声明を発表しました。

・ゲノム情報を理由とする差別禁止の明記。
・国と地方公共団体に差別防止施策を実施する責務、並びに医師や研究者、事業者に差別防止施策に協力するよう努める責務の規定。
・差別を受けた者の救済、生命倫理に配慮したゲノム医療の範囲の在り方の見直しなどを中立公正な立場でつかさどる独立行政委員会の設置。
・差別に関する罰則や、ゲノム情報の不正な取扱いに関する罰則などの整備。

金融庁「遺伝情報収集、利用は差別的取扱いにあたる」

6月8日の厚生労働委員会で、ゲノム医療法案の採決とともに設けられた一般質疑(委員が自由なテーマで行う質疑)では、各省庁が今後、ゲノム情報による差別の防止をどの程度深刻にとらえているかをただしました。特に、ゲノム情報の収集や利用、そして差別に人々が不安を持ちやすい生命保険については、「保険の引受けや支払において遺伝情報を収集、利用することは不当な差別的取扱いに当たると考えている」と金融庁が答弁したのは一定の意義がありました。今回の法案でも、何が差別であるのか定義は明確になっていません。政府がこの答弁をもとに、国によるガイドラインなど実効性のある施策をしているか、注視していきたいと思います。

天畠:次に、金融庁に伺います。金融庁は、生命保険などの加入時や支払時にゲノム情報を理由として差別的な取扱いを行うことは不当であるとお考えですか。また、今後も、ゲノム情報を理由とする差別が起こらないよう、関係省庁と連携してしっかり取り組んでいくおつもりはありますか。

政府参考人(三好敏之):(前略)金融庁といたしましては、生命保険協会等において見解が示されているように、現在の医療技術や社会的な議論状況等に照らせば、保険の引受けや支払において遺伝情報を収集、利用することは特定者に対する不当な差別的取扱いに当たるものと考えてございます。(後略)

2023年6月8日 厚生労働委員会質疑「ゲノム医療と差別禁止は両輪だ」

当事者だから言いにくいことと、当事者議員の役割

後日、一般社団法人全国がん患者団体連合会の天野慎介理事長、武藤香織教授(東京大学医科学研究所)らから、修正案と質疑に対しお礼と激励の言葉をいただいたのは、うれしい驚きでした。ゲノム医療を受ける患者さん達にとっては、一日も早い基本法制定は悲願だから、差別防止をもっと求めたくてもなかなか言えなかった。優生思想に警鐘を鳴らす活動を障がい当事者がしているのは知っているから、後ろめたい気持ちにもなってしまう。問題の渦中にいては言いにくいことを具現化し、当事者と周辺の人たちをつなぐことも、障がい当事者で且つ議員だからこそ果たすべき大きな役割だと、気づかせていただきました。また修正案の起案は、治療と障がい受容で葛藤してきた当事者の天畠だからこその決断でした。

修正案起案にあたっては、参議院が擁する法律の専門家(参議院法制局)、政策の専門スタッフ(参議院調査室)の力をおおいにお借りしました。またゲノム医療と似たテーマである生殖補助医療法案に取り組んでこられた同じれいわ新選組の舩後靖彦議員とその事務所にも、お力添えいただきました。支える力の大きさを学ぶ機会でもありました。

力不足で修正案は否決されましたが、今後の政策論議の一助となるよう願っています。また引き続き、差別防止の取り組みが進んでいるか注視してまいります。(文責:秘書 篠田恵)

※提出した修正案は以下よりご覧ください。

参議院法制局ホームページ 第211国会 参法・修正案一覧

「良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律案に対する修正案」(提出者:天畠大輔)

修正案

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