【2023年通常国会ハイライト⑦】重度障がい者の入院時介助者付き添いが出来ないのはおかしい!あらゆる機会に解決を求めました
重度障がい者の入院時介助者付き添いはなぜ不可欠なのか
「重度障がい者の入院時介助者付き添いが不可欠」と聞いて、皆さんはどう感じるでしょうか。入院中の簡単な世話なら看護師さんがしてくれるのでは?家族が付き添えば良いんじゃないの?そもそも不可欠と言う程ケアが必要なの?などと思われるかもしれません。しかし、重度身体障がいの当事者にとって、入院時介助者付き添いは文字通り「生命線」なのです。
理由①コミュニケーションに特別な介助が必要
重度障がい者には発話障害があったり、人工呼吸器を着けているため発声が出来なかったりして、意思疎通のために特殊なコミュニケーションの介助が必要になることがあります。たとえば天畠の場合は、心身の状態や意思を伝えるためには「あ、か、さ、た、な話法」による通訳が必要です。入院して初めて出会った看護師や医師が、「あ、か、さ、た、な話法」で直接天畠に病状を聞き取れるでしょうか。難しいはずです。また言語障がいがなかったとしても、体調の悪化により、いつものようにコミュニケーションが取れない場合もあります。
こんな事例がありました。文字盤を使って目で意思疎通するALS患者の方が、新型コロナウイルス感染症で入院時に、介助者や家族の付添いを断られました。医師はその方とコミュニケーションが取れず、様々な薬を使った結果、患者の目はほとんど見えなくなり、唯一のコミュニケーション手段を奪われました。つまり、介助者が付き添えないと、障がい当事者のその後の人生が変わってしまうかもしれない。最悪の場合は死に至る。それほど大きな問題なのです。
理由②生命維持のために常時介助が必要
これも天畠が実際に入院したことを想定すると分かりやすいです。頻繁に顎が外れてしまうので、呼吸困難に陥らないよう、呼吸の状態の素早い判断と適切な対処が求められます。そのためには、常にそばにいる介助者が必要不可欠です。天畠とまったく同じケースではなくても、人工呼吸器の管理など、ほぼ常に介助者のスタンバイが必要な重度障がい者は少なくありません。
理由③身体の動かし方に個別性が高い
重度身体障がい当事者は、身体の状況の個別性が非常に高いです。「筋緊張が入っている時に無理に動かすと余計に身体がこわばる」「この関節を動かすと痛すぎる」「暑さ寒さの感じ方が健常者と違う」「喀痰吸引の方法にコツがある」などなど。その人の身体や心身の状況をよく知る、慣れた介助者であればすぐ分かることも、初めて会う看護師や医師では分からないことも多いのです。介助者を伴わない入院で、当事者がけが(骨折・捻挫)をした事例はも過去に何件もあります。
理由④看護師が常に障がい者のケアを行うことはできない
理由①~③で説明したように、重度障がい者の入院付添は、ほぼ常時、生きるのに不可欠なケアを行うことが特徴です。一人で複数の患者を受け持つ看護師が、個別性の高い障がい者のケアを習得し、常時対応することは不可能です。
さらに医療機関にとっても、介助者の付添いがなければ障がい者との円滑な意思疎通ができず、医療ミス、医療事故を未然に防ぐためのリソースを断ち切ることになってしまいます。
なぜ入院時付き添いに国の障害福祉サービスが使えないのか
重度障がい者の入院時介助者付き添いは不可欠ですが、障害福祉サービスで費用を補填してもらえる人の範囲が非常に狭いことが問題です。就労が難しい重度障がい当事者は、自費ですべての介助者費用を出すのは厳しいのが現実です。
たとえば重度訪問介護の場合、現在は最重度の障害支援区分6の人しか、対象ではありません。しかしこれも、様々な障がい者団体が長年にわたり厚労省に改善を要望してきた成果です。平成30年の障害福祉サービス等報酬改定までは、どんなに障がいが重くても介助者を伴っての入院に国の障害福祉サービスは使えませんでした。
ではなぜ、障害福祉サービスで費用を補填してもらえる人の範囲が非常に狭く、特例扱いなのか。それは医療保険による医療サービス(看護師によるケア)と、公金による障害福祉サービスの「二重取り」になるから、という行政の論理からです。しかし、重度障がい者の介助は看護では補えません。看護と介助は違うサービスであり、表面だけを取って「二重取り」とするのは極めて乱暴です。つまり、受診や入院にあたり「医療、看護、介護のすべてが必要な人もいる」ことが想定されていないのです。
また厚労省通知で区分6の人は認められていたとしても、医療機関側が病室に医療スタッフや家族以外の人を入れることに抵抗を示し、現場レベルで介助者付添ができないこともあります。新型コロナウイルス感染症の蔓延下では、介助者付添拒否に拍車がかかりました。この問題に対しては、厚労省も受け入れ事例を示すなど医療機関に受け入れを呼びかけていますが、根本的な解決には至っていません。
「二重取り」問題は障害福祉だけでなく医療保険制度にも関わることから、解決が非常に難しいとのこと。政府には生活者のニーズから出発し、入院中には他の行政サービスが使えないという事態を一日も早く改善していただくよう、今後も解決策を模索していきます。
2022年臨時国会から、この問題に取り組んできました
しかし、根本的な解決だけを追求していても、重度障がい者がいま直面する困難は解決できません。そこでまずは区分5や4の人が、入院時介助者付添に重度訪問介護を利用できるよう、昨年の臨時国会から、制度改善を働きかけています。区分5や4の人が入院するにあたって、日常では特別なコミュニケーションが必要なくても、病気の症状によっては意思疎通が困難になることもあるからです。日常の障害支援区分だけで、単純に入院時介助者付添いの必要性をはかることはできません。
天畠:入院中の重度訪問介護の利用可否を、障害支援区分で判断するのはあまりにも理不尽です。介助を必要とする障がい者が安心して入院できるように、区分5及び4への対象拡大について早急な検討をお願いしたいと思いますが、大臣のお考えをお聞かせください。
加藤勝信厚労大臣:入院中の重度訪問介護の支援の対象となる障害支援区分について、現在は利用者ごとに異なる特殊な介護方法について医療従事者などに的確に伝達し、適切な対応につなげる必要があることなどから、障害者区分6の最重度の障がい者のコミュニケーション支援について、平成30年度からの重度訪問介護の対象となっているところであります。
2022年11月24日 厚生労働委員会質疑「感染症法等改正案審議 総理質疑・対政府質疑・反対討論」
その上で、本年6月の社会保障審議会障害者部会の報告書において、それを拡充について検討すべきとされております。特別なコミュニケーションが必要な障がい者が支援者の付添いにより安心して入院できるよう、こうした報告書の指摘も踏まえ、支援が必要な状態像や支援ニーズの整理を行いながら、支援対象者の在り方について次期報酬改定に向け必要な検討を進めていきたいと考えております。
令和6年度の報酬改定に向けて、今まさに厚労省で検討が進んでいます。動向を注視していきます。
また新型コロナウイルス感染症蔓延下では、入院時介助者付添の拒否に拍車がかかりました。ふだんは付き添いを認めてくれるかかりつけの病院に入院しようとしたところ、コロナ感染のリスクがあるので介助者を入れての入院が断られ、自宅療養となり、適切な医療を受けられずに亡くなったケースもあります。
次の感染症蔓延時でこのようなことを繰り返さないために、政策的な備えが必要です。昨年の臨時国会では、感染症法が改正されました。その中で、都道府県知事が平時に各医療機関と協議を行い、新型コロナウイルスへの対応も踏まえながら、地域における各医療機関の機能や役割に応じて協定を締結することが新たに決まりました。その協定の中で、ぜひ現場の方々には支援者が付き添って入院できる体制整備を盛り込むよう、国会質疑で求めました。
結果、今年5月に厚労省から都道府県担当部局へ「積極的に検討いただくよう促す」よう通知が発出されました。今後、都道府県での取り組みが注目されます。
障害児者が新興感染症に感染し、入院が必要となる場合の入院調整が円滑に進むよう、都道府県の衛生部局と障害保健福祉部局が連携し、障害児者各々の障害特性と必要な配慮(例えば行動障害がある場合や医療的ケアが必要な場合、特別なコミュニケーション支援が必要な場合など)を考慮した受入れ医療機関の設定を進める。 これらの体制の構築においては、入院調整を行う部署に障害特性等に理解のある医師が参画するなど受入医療機関の調整に当たっての意見を聴取することも重要である。 また、「特別なコミュニケーション支援が必要な障害者の入院における支援について」(平成28年6月28日付け保医発0628第2号厚生労働省保険局医療課長通知)により、看護に当たり、コミュニケーションに特別な技術が必要な障害を有する患者の入院において、入院前から支援を行っている等、当該患者へのコミュニケーション支援に熟知している支援者が、当該患者の負担により、その入院中に付き添うことは可能となっている旨を示しているところであり、当該支援者の付添いについても、衛生部局と障害保健福祉部局が連携し、管内医療機関に対して、院内感染対策に十分留意しつつ、積極的に検討いただくよう促す。
出典:「疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制について」の一部改正について (令和5年5月26日医政発0526第5号)
今年の通常国会でもあらゆる機会で改善を求めました
今年の通常国会では、かかりつけ医機能を強化するため、医療法や高齢者医療確保法などの法改正がありました。医療機関が国民に向けて開示する情報提供制度の中に、入院時の介助者付添いの項目を設け、重度障がい者の医療アクセスを良くするよう提言しました。また情報提供にあたっては様々な障がいに配慮した情報保障と、検討への当事者参画を求めました。
天畠:(前略)今回の法改正では、かかりつけ医機能を持つ医療機関が、「夜間対応」「地域包括ケアシステム等との連携」など、国民に向けた情報提供をすることになっています。大臣、この情報提供項目の中に、「入院時の介助者の付添い」が可能か否かの項目を加えるべきではないでしょうか。
加藤勝信厚労大臣:(前略)今般の改正についてご議論いただいた社会保障審議会医療部会の意見の中でも、情報提供項目のイメージとして、高齢者、障がい者、こどもなど、対象者別に項目を整理することについて提案がなされたところであります。法案が成立し、医療機能情報提供制度において、法案が成立すれば、医療提供、医療機能情報提供制度において報告を求める具体的な項目などについては有識者などの意見などを踏まえ検討させていただくこととなりますが、こうした医療部会からの提案も踏まえつつ、さらに今ご指摘のありました入院時の介助者の付添い対応の可否を情報提供項目とする必要があるかどうか、こういった点も含めて議論を進めていきたいと考えております。
2023年4月25日 厚生労働委員会質疑(全世代型社会保障法案審議)「受診に医療・看護・介助のすべてが必要な人もいます!」
天畠:(前略)まず、障がい者が安心して医療を受けられるように、医療機能情報提供制度において、どのような項目を入れるべきか再検討するときです。検討の際には、障がい当事者へのヒアリングはもちろんのこと、検討のメンバーに当事者を参画させることが必要不可欠です。そして、かかりつけ医機能の情報提供項目の検討においても、当事者参画の下で、障がい者への配慮について議論する必要があると考えます。以上2点について、加藤大臣の考えをお聞かせください。
加藤勝信厚労大臣:(前略)情報提供項目の見直しに関する検討の場や、有識者の詳細について現時点で定まって、決めているものではありませんが、情報提供項目の意味合いが障がい者を含む全ての国民の医療機関の選択に資するよう、様々な立場の有識者や学識経験者などのご意見をしっかりと踏まえながら、具体的な内容等を検討してまいりたいと考えております。
天畠:当事者参画については約束していただけませんでした。検討メンバーに当事者を必ず参画させてください。また、検討する際には、各都道府県の医療情報ネットの改善も必要です。医療機能情報提供制度の導入により、診療科目、診療日、診療時間や対応可能な疾患、治療内容等の医療機関の詳細がわかるウェブサイトが各都道府県で運用されています。つまり、実際にかかりつけ医を選ぶ際の情報源にもなります。
東京都が運営している、運用しているサイト「ひまわり」では、車いす対応か否か、視覚障がい者や聴覚障がい者への配慮有無などの情報は閲覧でき、キーワード検索でもある程度障がい者への配慮があるか確認ができます。しかし、ほかの都道府県のサイトでは、全ては確認できていませんが、検索では障がい者への配慮があるか確認ができなかったり、そもそも障がい者への配慮に関する項目の表示がないところもありました。
情報提供項目の中身はもちろんのこと、その情報をわかりやすく確実に提供できる仕組みについても、各都道府県の運用状況を把握した上で、当事者参画の下で検討し、各都道府県にひな形を示すべきだと考えます。大臣、いかがでしょうか。
加藤勝信厚労大臣:まず、情報提供システムのお話がありました。これまで都道府県がそれぞれ独自に構築、運用している住民や患者さんなど向けの医療機能情報提供システムについては、公表形式を統一するとともに、県境を越えた検索も容易にするため、来年度、令和6年度を目指して全国統一的な検索サイトを構築することとしております。
情報提供項目だけではなくて、こうした情報提供の方法についても、障がい者を含む全ての国民にとって分かりやすい情報提供を実現できるように進めていかなければなりません。やり方についてはまだ、先ほど申し上げましたように、詳細固めているわけではありませんけれども、様々な方の立場がしっかりと反映していけるようにこの検討を進めていきたいというふうに考えております。天畠:こちらについても、必ず当事者を参画させ、ウェブアクセシビリティも含めてしっかり検討してください。
2023年5月11日 厚生労働委員会質疑(全世代型社会保障法案審議)「障がい者が安心できる医療のために提案します!」
現在、これらの検討が進行中です。重度障がい当事者にとっては命にかかわる問題です。ぜひ皆さんも、関心を寄せて注視してください。(文責:秘書 篠田恵)