略歴
天畠 大輔(てんばた だいすけ)
1981年生まれ。14歳の時、医療ミスにより、四肢麻痺・発話障がい・視覚障がい・嚥下障がいを負い、重度の障がい者となり車椅子生活となる。 ルーテル学院大学を経て、立命館大学大学院先端総合学術研究科先端総合学術専攻一貫制博士課程修了、2019年3月博士号取得。日本で最も重い障がいをもつ研究者となる。現在は参議院議員(れいわ新選組)、中央大学社会科学研究所客員研究員。一般社団法人わをん代表理事として重度障がい者の長編インタビューサイト「当事者の語りプロジェクト」運営。
年表
- 2022年7月
- 第26回参議院議員選挙にてれいわ新選組全国比例(特定枠)から当選
立命館大学衣笠総合研究機構専門研究員辞任 - 2022年4月
- 立命館大学衣笠総合研究機構専門研究員着任
- 2020年3月
- 一般社団法人わをんを立ち上げ、代表理事に就任
- 2019年4月
- 日本学術振興会特別研究員(PD)として、中央大学にて研究開始
- 2019年3月
- 立命館大学大学院先端総合学術研究科先端総合学術専攻一貫制博士課程修了
(株)Dai-job high代表取締役辞任 - 2017年10月
- 指定障害福祉サービス事業所㈱Dai-job high を立ち上げ、代表取締役に就任
- 2015年9月
- 公的な介助サービス(重度訪問介護)を利用し、東京都内で一人暮らしを開始
- 2010年4月
- 立命館大学大学院先端総合学術研究科先端総合学術専攻一貫制博士課程入学(Skypeを利用した遠隔受講にて通学)
- 2008年9月
- ルーテル学院大学卒業
- 2006年4月
- 障がい学生の大学生活をサポートする団体、LSS(ルーテル・サポート・サービス)を設立。その後、大学の公認団体に成長。
- 2005年4月
- 同大社会福祉学科に編入。社会福祉、介護等の勉強を本格的に始める。
- 2004年4月
- ルーテル学院大学総合人間学部神学科合格。念願の大学入学を果たす。
- 2003年2月
- ルーテル学院大学を特別な配慮で受験したが不合格。しかし大学は、1年間の聴講を勧めてくれた。来年再受験することを期して、1年間の徹底的な受験モードに。
- 2002年9月
- 大学受験の勉強をしながら、いくつかの私大にアプローチしたがことごとく断られる。ただルーテル学院大学だけから受験許可をもらう。
- 2000年3月
- 千葉市袖ヶ浦養護学校高等部卒業
- 1999年3月
- リハビリテーションセンターを退院。自宅から通学する。
- 1997年4月
- 千葉市袖ヶ浦養護学校高等部に進学
- 1996年12月
- 千葉県立リハビリテーションセンターに転院。併設の千葉市袖ヶ浦養護学校中等部に入学し、病院から学校に通う。
- 1996年8月
- ICUを出て、一般病棟に移る。四肢麻痺、発語不能、嚥下障がい、視覚障がい等多くの障がいを抱える。はじめて「あ、か、さ、た、なコミュニケーション」で、自身の意思を母に伝えることができた。この年、一種一級最重度の障がい者と認定され、常時車椅子生活で、24時間介助を必要とするようになる。
- 1996年5月
- ICUにて約3週間の昏睡状態。気管切開。横隔膜麻痺の疑いあり。意識は戻らない日々。
- 1996年4月
- ストレスによる精神疾患および過換気症候群と誤診される。
再度救急搬送後、若年性急性糖尿病と診断され、急遽インシュリン投与を受けるが、処置が悪く、心停止(約20分)を起こす。ICUに搬送され、生死の境を迷う。 - 1996年2月
- イギリス留学中に体調不良(ドクターストップ)で帰国。
- 1994年
- 中学入学、その後不登校となる。
- 1981年12月
- 広島県呉市にて生まれる。
業績
<主な受賞歴>
第43回NHK障害福祉賞・優秀賞受賞,2008年12月.
2021年度社会デザイン学会奨励賞受賞,2021年12月.
2023年度日本社会福祉学会学会賞奨励賞受賞,2023年10月.
<主な助成採択歴>
日本学術振興会特別研究員DC-1(社会科学領域)、「コミュニケーションが極めて難しい重度障がい者の『通訳者』、その重要性と社会的意義」、2012年4月~2015年3月.
日本学術振興会特別研究員PD(社会科学領域)、「『発話困難な重度身体障がい者』と『通訳者』間に生じるジレンマと新『事業体モデル』」、2019年4月~2022年3月.
<主な著書>
『しゃべれない生き方とは何か』
(2022年、生活書院)
『〈弱さ〉を〈強み〉に――突然複数の障がいをもった僕ができること』
(2021年、岩波新書)
『声に出せない あ・か・さ・た・な――世界にたった一つのコミュニケーション』
(2012年、生活書院)
<主な論文>
天畠大輔,2013,「天畠大輔におけるコミュニケーションの拡大と「通訳者」の変遷――「通訳者」と「介助者」の「分離二元システム」に向けて」,『Core Ethics』9: 163-74.
天畠大輔,2020,「『発話困難な重度身体障がい者』における介護思想の検討――兵庫青い芝の会会長澤田隆司に焦点をあてて」『社会福祉学』60(4): 28-41.
天畠大輔,2020,「『発話困難な重度身体障がい者』の論文執筆過程の実態――思考主体の切り分け難さと能力の普遍性をめぐる考察」『社会学評論』71(3): 447-65.
天畠大輔,2021,「『発話困難な重度身体障がい者』の文章作成における実態――戦略的に選び取られた『弱い主体』による,天畠大輔の自己決定を事例として」『社会福祉学』61(4): 27-41.
天畠大輔・黒田宗矢,2014,「『発話困難な重度身体障がい者』における『通訳者』の『専門性』と『個別性』について」,『Core Ethics』10: 155-16.
天畠大輔・村田桂一・嶋田拓郎・井上恵梨子,2013,「発話障がいを伴う重度身体障がい者のSkype利用――選択肢のもてる社会を目指して」,『立命館人間科学研究』28,13-26.
私のコミュニケーション方法
私は自分の口で話せないため、「あ、か、さ、た、な話法」という方法を用いて、訓練を受けた介助者に通訳してもらう必要があります。
たとえば、「テーブル」と伝えたいときは、以下の通りです。
- まず、介助者が私の手を持ち、腕を引っ張りながら、「あ、か、さ、た、な・・・」と五十音表の行の頭文字を読み上げ、私は「た」行のところで腕を引きます。
- 次は介助者が「た行のた、ち、つ、て、と」と「た」行を読み上げ、私は介助者が「て」と言うときに合わせて腕を引くことで、一文字目は「て」と確定します。
- これを繰り返すと「て、え、ふ、る」となります。
- 長音(ー)や濁点(゛)、半濁点(゜)、促音(っ)、拗音(ゃゅょ)は介助者が推測して私に確認します。このようにして「テーブル」として伝わります。
さらに、時間や労力を減らすため、私は介助者に積極的な先読み、予測変換を推奨しています。たとえば会話場面では、「こんにちは」と言いたいときは、介助者が「こ、ん」まで読み取り「こんにちは、でいいですか?」と私に問いかけます。その後、了解の合図を出して、「こんにちは」と通訳をしていきます。
「あ、か、さ、た、な話法」についてよくある質問
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天畠さんが「何か言いたい」と思ったら、どうやって介助者に伝えているの?
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発話障がいがありますが、「あー」や「んー」と声を出すことはできます。何か言いたいことがあるときは、声を出すことで介助者に伝えています。何か飲みたいときは、飲み物が入ったコップを見ながら声を出すなど、話すことができない分、「視線」や「表情」で伝えることも大切にしています。
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介助者はどうやって合図を読み取っているの?随意運動か不随意運動か、どうやって分かるの?
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私は脳の運動野に重い障がいを受け、自分の意思とは関係なく身体が動いてしまう不随意運動があり、さらに筋肉の緊張がとても強いため、身体の動きをコントロールすることが極めて困難です。合図を送る場所は、比較的不随意運動が少ない腕を用います。右腕を介助者に引っ張ってもらい、私が引っ張り返せば「イエス」、何も動かさないときは「ノー」というサインになります。介助者が腕を引っ張っていないのに、私が動いているときは不随意運動です。また、介助者が腕を引っ張っていても、筋緊張が強く、体が激しく揺れているときもあります。そういうときは顎関節も外れて呼吸困難になっているので、いったん通訳を止めて、呼吸の確保に集中するよう介助者に伝えています。筋緊張が落ち着いてから、また通訳を再開してもらいます。
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だれでもできるの?
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「あ、か、さ、た、な話法」は五十音表を基にしているため、原理はとてもシンプルです。個人差はありますが、介助者が私の指示を理解したり、最低限の通訳ができるようになるまでに半年ほどかかります。正確に数えてはいませんが、これまで何百人もの人たちが私の介助に関わり、「あ、か、さ、た、な話法」を習得しました。ただし、単語や語尾の変化(敬語にするなど)を先読みしたり、短い文章から言いたいことを予測するなど、私が考えていることをスムーズに通訳するためには、長い時間をかけて私とのコミュニケーションを積み重ねる必要があります。
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先読みすると、天畠さんが言いたいことと違くなってしまわないの?
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介助者が先読みをするときは、「○○で、いいですか?」等と必ず私に確認することを徹底させています。具体的には、先読みが合っているときは手を引き、違う時は手を引かないというルールにしています。介助者が私の合図を読み取れず、間違った先読みをしたときは、声を上げたり、顔をしかめたりして通訳を止めます。そして、「あ、か、さ、た、な話法」で「ちがうよ」とはっきり伝えるようにもしています。また、介助者が先読みしやすいように、私自身が言葉選びに気をつけています。たとえば「牛乳」と言いたいとき、「き、ゆ、う、に、ゆ、う」と伝えると介助者が先読みしにくいため、「ミルク」という言葉で伝えています。すると飲み物を選ぶとき、介助者は「み、る」まで読み取ると、「牛乳のことですか?」と先読みしてくれるようになります。
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なぜ文字盤やスイッチ式の意思伝達装置を使わないの?
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私の視覚障がいは、平面がかなり見えにくいが立体は認識できるという特殊なものです。なので、文字盤に向けた視線から文字を読み取る方法は困難です。
また、タイミングを合わせて意図的に身体のどこかに力を入れないといけないスイッチでは、私のように不随意運動があると、機械が誤った文字を読み取ってしまい、意味が伝わらなくなってしまいます。
これまであらゆる装置を試用してきましたが、どれも実用には至らず、特定の介助者と共有知識を積み重ねることでコミュニケーション精度を上げることが最も合理的というのが、今の着地点です。