2024年6月6日 厚生労働委員会質疑(再生医療安全性確保法等改正案審議)「医療技術の進展で新たな差別が生まれてはならない」
〇天畠大輔
代読いたします。れいわ新選組の天畠大輔です。
遺伝子治療は、細胞加工物を用いるか否かによってex vivo(エクスビボ)遺伝子治療とin vivo(インビボ)遺伝子治療の2種類に分類されます。人の体から細胞を取り出し、遺伝子を改変した後で体に戻すex vivoは「再生医療法」の対象となっている一方、遺伝子の運び屋として機能するウイルスベクター等を直接体内に投与するin vivoは現在も対象外であり、自由診療として行われる場合には特段の規制が掛かっていない状態です。
再生医療法見直しに係るワーキンググループが2021年8月に出した報告書には、in vivo遺伝子治療のリスクとして第3者への伝播や重篤な副作用などが指摘されています。また、2018年度に実施した調査事業において、インターネットの公開情報だけでも63の医療機関ががんに対するin vivo遺伝子治療を自由診療で行っている実態が早くも認識されていました。
資料1をご覧ください。実際にがんを対象にしたin vivo遺伝子治療で被害を受けている方がいます。舌がんの男性は一縷の望みを懸けてin vivo遺伝子治療を受けましたが、効果がないどころかがんが悪化してしまいました。それでも主治医は治療を進め、その方は途中でやめたものの、転院先の病院で亡くなってしまいました。男性は、亡くなる前に、「何やってんだろう」とこぼしたそうです。既に546万円もの治療費を支払っていました。
今回の法改正において初めてこのin vivo遺伝子治療が再生医療法の対象に入るとのことですが、6年もの間放置してきたのはなぜですか。事が起きてから規制するのでは遅過ぎます。厚労省、お答えください。
〇政府参考人(内山博之君)
お答えいたします。再生医療等安全確保法については、制定時の附則の検討規定を踏まえて、審議会において施行5年後の見直しに係る検討を令和元年から開始し、令和元年の12月に中間整理を行ったところでございます。さらに、この中間整理を踏まえ、in vivo遺伝子治療に対する法的枠組みなど更なる検討が必要な事項について審議会において検討を行い、令和4年6月に取りまとめがなされたところでございます。
厚生労働省では、この審議会の取りまとめにおいて示された今後の対応の方向性を踏まえて具体的な見直し措置の内容について更なる検討を行ってきたところでございまして、今般その検討を終えたことから改正法案を提出させていただいたということでございます。
〇委員長(比嘉奈津美君)
天畠君が発言の準備をしておりますので、お待ちください。
〇天畠大輔君
法整備が遅過ぎなのは厚労省の怠慢ではないですか。古川委員も批判したとおりです。政府参考人、お答えください。
〇政府参考人(内山博之君)
繰り返しになる部分あるかもしれませんけれども、このin vivo遺伝子治療等を再生医療等安全確保法の対象に加える点につきましては、まさに昨今の技術革新も踏まえ、厚生科学審議会において議論を重ねていただいた上でその検討を行って、今回その検討を終えたタイミングで法の適用の対象にすることとし、そのために改正法案をこの国会に提出させていただいたものというふうに考えてございます。
〇委員長(比嘉奈津美君)
天畠君が発言の準備をしておりますので、お待ちください。
〇天畠大輔君
失われた命は戻りません。大臣にも猛省を求めます。代読お願いします。
次に、ヒト受精胚の利活用について伺います。本法案の附則第2条には、受精胚などを用いる先端的な医療技術に対する本法律の適用について、施行後2年をめどに検討すると規定されています。現状、受精胚に対するゲノム編集などの臨床研究は禁止されていますが、今後、その道を開く可能性を示唆してはいませんか。
〇政府参考人(森光敬子君)
お答えいたします。本法案の附則第2条第1項は、先端的な医療技術の開発・普及が急速に進む中、国内外の研究開発や医療の提供の状況、諸外国における当該医療技術に係る規制の状況等を踏まえながら、当該医療技術に対する法律の適用のあり方等を検討する旨規定したものでございまして、必ずしも先端技術の適用などに道を開く可能性を示唆する表現にはなっていないものと考えております。
その上で、ゲノム編集技術等を用いたヒト受精胚等の臨床利用につきましては、厚生労働省の専門委員会が2020年に取りまとめた「議論の整理」において、「技術上の限界や生じ得るリスクについて十分に評価することができない等の科学技術的課題があること」などの理由により、「規制の実効性が現状の制度以上に担保できるような制度的枠組みを設けることが必要」とされたところでございます。
これを受けて、厚生労働省においては、ゲノム編集技術等を用いたヒト受精胚等の臨床利用に関する規制のあり方について、具体的にどのような法制上の措置を講ずることが適当か検討を行っているところでございます。
〇委員長(比嘉奈津美君)
天畠君が発言の準備をしておりますので、お待ちください。
〇天畠大輔君
こちらも古川委員もおっしゃっていたとおりですが、法整備が遅過ぎます。代読お願いします。
2021年2月、総合科学技術・イノベーション会議CSTI(システィ)は、ゲノム編集技術等を用いた遺伝性・先天性疾患の研究などに、従来は生殖補助医療の余剰胚の提供を受けてしかできなかったところ、新たに受精胚を作成することを容認しました。これを受けて、文部科学省は、今年2月にヒト受精胚に関する研究倫理指針の改正を行っています。
一方、「遺伝子治療等臨床研究に関する指針」においては、生殖細胞及び受精胚を対象として、遺伝子治療等を行う臨床研究が禁止されています。
しかし、ヒト受精胚に関する研究倫理指針の改正と同様に、指針レベルの規定では容易に規制緩和される懸念は拭えません。本来であれば、ヒト受精胚を対象とした臨床研究の禁止を含めた法整備を検討すると検討条項に明確に規定すべきでした。
資料2をご覧ください。ゲノム編集技術等を用いたヒト受精胚の臨床利用に関しては、諸外国では既に厳格な禁止法を規定しています。例えば、米国では研究に対する連邦政府の資金提供を禁止、英国はゲノム編集技術を用いた受精胚の臨床応用を禁止、フランスは生殖補助医療以外の胚作製を禁止などとなっています。
再生医療法の適用のあり方を検討する前に、ゲノム編集技術等を用いたヒト受精胚の臨床利用禁止をまずは法定化すべきではないですか。
〇国務大臣(武見敬三君)
このゲノム編集技術などを用いたヒト受精胚等の臨床利用につきましては、基本的に、この厚生労働省の専門委員会が取りまとめた「議論の整理」において、「規制の実効性が現状の制度以上に担保できるような制度的枠組みを設けることが必要」とされたことなどを踏まえまして、今回の改正法案の検討規定に基づき、具体的にどのような法制上の措置を講じることが適当かを検討していくこととなるものと考えております。引き続き、こうした関係者の皆様から幅広く意見を伺いながら検討を進めていきたいと思います。
〇委員長(比嘉奈津美君)
天畠君が発言の準備をしておりますので、お待ちください。
〇天畠大輔君
法整備においては、ヒト受精胚の臨床利用の「禁止」を維持すると、大臣、ご確認ください。
〇国務大臣(武見敬三君)
具体的な法制上の措置のあり方については幅広く関係者のご意見を伺いながら丁寧に検討する必要があると考えておりまして、現時点でその方向性について予断を持ってお答えすることは適切でないと考えますが、基本的にはこの議論の整理を踏まえて検討を進めていくことになると考えます。
〇委員長(比嘉奈津美君)
天畠君が発言の準備をしておりますので、お待ちください。
〇天畠大輔君
医療技術の発展が新たな差別を生み出してはなりません。それぐらいは皆さん分かっているはずです。代読お願いします。
我々れいわ新選組は、昨年の通常国会で審議されたゲノム医療法案に反対し、修正案を提出しました。優生保護法による被害への総括と優生思想からの脱却を成し遂げていない日本の現状において、ゲノム医療の名の下に、病気の原因遺伝子を改変し、子を誕生させるなどの医療行為が十分な規制もなしに施される危険性を払拭することはできないと考えました。修正案の中で、差別を受けた者の救済、生命倫理に配慮したゲノム医療の範囲のあり方の見直しなどを中立公正な立場でつかさどる独立行政機関の設置を求めています。
資料3をご覧ください。ヨーロッパ各国では、医療等の発展によって生じる倫理的課題について議論し、政府に提言等ができる委員会が設置されています。日本でも生命倫理に特化した独立行政委員会を設置すべきではないですか。
〇国務大臣(武見敬三君)
委員ご指摘の独立行政委員会と申しますものは、所掌事務の遂行にあたり、政治的中立性や専門技術性などが求められる観点から、内閣から独立した地位にある機関に行わせる必要がある場合に設置されるものでございます。一般論として、仮に設置する場合には、新たな組織が担う具体的な業務の内容について明確にし、必要性について十分な議論が必要となります。
他方で、ご指摘のように、この差別であるとか生命倫理の課題は大変重要で重いものと考えております。今般の改正法案におきましても、遺伝子関連医療に関しては、生命倫理の専門家も含めた審議会において十分な議論を行ったところでございます。引き続き、差別や生命倫理の課題について必要な対応が生じた場合には、審議会などの場において丁寧かつ十分に検討を進めていきたいと思います。
〇天畠大輔君
代読いたします。再生医療技術の進展に伴って新たに生じる、あるいは生じるおそれのある差別や命の選別を防ぐ法整備を行う意思が政府にあるのか、疑念を抱きます。
深刻な障がいや疾病を前にして、「何とか治したい、克服したい」という当事者の願いは切実です。私もまた、「自分の障がいが少しでも軽くなるのなら何でもする」という思いにとらわれ続けました。しかし、「障がいを治さなくてもこの社会の中で自分の意思でしっかりと生きていくことはできるはずだ」ということに気付いたとき、その呪縛から解放されたのです。
困難を抱える当事者に応えるはずの医療技術の進歩が、「障がい・疾病はない方が幸せで、あるのは不幸だ。だからその危険性を除外するのは当然だ」という考え方に凝り固まったとき、新たな差別が発生し、切り捨てられる人々が生まれます。
優生思想は、人類が差別と戦争という恥辱に満ちた歴史を振り返ったとき、最大限の努力を払って早急に克服すべき最重要課題です。医学モデルから社会モデル、人権モデルへの転換と、優生思想と差別を根絶する確固たる意思を政府は示すべきと考えますが、大臣、いかがですか。
〇国務大臣(武見敬三君)
この再生医療などをはじめとする医療技術が進歩することで、新たな疾病の治療や予防につながるなど、医療の質が向上することが期待されます。他方で、ご指摘のように、医療技術の進歩が、障がいや疾病がない方が幸せといった優生思想や不当な差別につながるようなことがあってはなりません。
厚生労働省としては、先端的な医療技術を推進するとともに、すべての国民が安心して生活ができるように、この障がいや疾病の有無にかかわらず、すべての人がひとしく基本的人権を有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念の下で、障害者施策をはじめ、厚生労働行政に取り組んでまいりたいと思います。
〇委員長(比嘉奈津美君)
天畠君が発言の準備をしておりますので、お待ちください。
〇天畠大輔君
誰一人置き去りにしない社会とは、優生思想を克服した社会です。質疑を終わります。
〈反対討論〉
〇天畠大輔君
医療技術の発展が優生思想にくみしてはいけません。代読お願いします。
私は、れいわ新選組を代表し、再生医療法及び臨床研究法の一部改正案に対して反対討論を行います。
まず、今回のin vivo遺伝子治療の再生医療法適用化が遅きに失しているという点は指摘しなければなりません。舌がんの再発で余命半年と告げられた男性は、インターネットに掲載された自由診療の遺伝子治療にわらをもつかむ思いですがり、546万円の治療費を支払いましたが、病状は逆に悪化し、3か月後に亡くなりました。
「目的遺伝子」を直接体内に投与するin vivo遺伝子治療に関しては、2018年度の調査において、既にインターネットの公開情報だけで少なくとも63の医療機関が自由診療を行っていることが報告されていました。それから6年たった今般の法改正で、ようやく厚労省は規制に乗り出したわけです。午前中、与党委員からも強い批判が寄せられました。
反対理由の第1は、諸外国で既に法定化されているゲノム編集技術を用いた受精胚の臨床利用禁止が一向に法定化されていないという点です。それどころか、総合科学技術・イノベーション会議CSTI(システィ)は、ゲノム編集技術を用いた遺伝性・先天性疾患の研究に新たに受精胚を作ることを容認しました。これを受けて、文科省は、今年2月、「ヒト受精胚に関する研究倫理指針」を改正しているのです。
本法案の附則には、「本法律施行後2年をめどに受精胚加工物に関する先端的医療技術の研究開発状況を勘案し、検討の上、必要な措置を講ずる」旨書かれています。ヒト受精胚の臨床利用は、現在、「遺伝子治療等臨床研究に関する指針」で禁止されていますが、あたかも将来の解禁をうかがわせる内容です。
深刻な障がいや疾病を抱える当事者の願いは切実です。しかし、「自分の障がいが少しでも軽くなるのなら何でもする」と思っていた私は、医師から「残念ながら今の医学ではあなたを治療する方法はありません」と告げられたとき、自分でも不思議なほどすんなりとそれを受け入れられました。「できない部分は介助者に補ってもらいながら、みんなと同じように自由に生きていくことはできるはずだ」という希望が私に勇気を与えてくれました。
困難を抱える当事者に応えるはずの医療技術の進歩によって、新たな差別が生み出されてはなりません。障がいや疾病のあるなしやその程度によって人間の価値を測るような社会は間違っています。このような優生思想に対する確固たる決別の姿勢がこの法案からはまったく見受けられない。反対理由の第2はここにあります。
医学モデルから社会モデル・人権モデルへの転換に果敢に取り組み、すべての人々が「生きていてよかった」と実感できる世の中を今こそつくり上げるべきと強く申し上げ、本法案に対する反対討論を終わります。
〈配布資料〉