2024年5月30日 厚生労働委員会質疑「糖尿病だけでも障害基礎年金を受けられます 門前払いを阻止せよ」
〇天畠大輔君
れいわ新選組の天畠大輔です。 糖尿病の障害年金について質問いたします。代読お願いします。
前回質疑でも取り上げましたが、大阪で長きにわたる1型糖尿病障害年金訴訟の闘いに終止符が打たれました。
資料1の1をご覧ください。この裁判は、平成29年に1型糖尿病患者がそれまで支給されていた障害基礎年金2級が打ち切られたのは不当だと支給停止処分取消しを求めた集団訴訟です。平成31年に全員が勝訴したにもかかわらず国は再び不支給を通知したため、再提訴していました。資料1の2のとおり、今年4月19日に大阪高裁で原告の全面逆転勝訴が言い渡されました。原告8名全員に2級の支給が認められ、国は上告しませんでした。
これほどまでの混乱を招いた原因は、平成28年に行われた糖尿病の基準改正に遡ります。その際開かれた専門家会合はメンバー6名全員が医師。できあがった3級の認定要領は医学的な指標に偏り、他疾患より明らかに重過ぎる不合理なものでした。
資料2をご覧ください。弁護団は、「前回の専門家会合は、2型糖尿病で適正なコントロールを怠っている患者を障害年金から排除すること、つまり2型糖尿病を3級認定の対象から除外しようとしたことがうかがわれ、そのため、糖尿病は他疾患に比べて厳し過ぎる基準になったのではないか」と指摘しています。例えば、認定要領(5)のア、インスリン分泌がほぼない、「枯渇」を要するという極めて限定的な基準は、専門家の知見を経ずに厚労省がたたき台で提案したものです。議事録には理由も残されませんでした。
過去の専門家会合での糖尿病認定要領の決め方は果たして本当に適切だったと言えるのか、大臣の見解を簡潔にお聞かせください。
〇国務大臣(武見敬三君)
2015年、平成27年に開催した障害年金の認定に関する専門家会合というものは、この新しい医学的知見などを反映させる観点から、糖尿病などに関する専門家、医師6名を構成員として、日本糖尿病協会や糖尿病の患者、それから家族会からのヒアリングも行った上で障害認定基準及び診断書の見直しを行ったものであります。適切なものであったと考えています。
〇委員長(比嘉奈津美君)
天畠君が発言の準備をしておりますので、お待ちください。
〇天畠大輔君
前回の決め方は適切でなかったという指摘を重く受け止めていませんね。代読お願いします。
次に、認定基準を見てみます。資料3をご覧ください。まず、糖尿病をはじめとする内部障害は症状が固定化されない特徴を持つにもかかわらず、「当該疾病の認定の時期以後少なくとも1年以上の療養を必要とするものであって、長期にわたる安静を必要とする病状」という文言が実態と合っていません。例えば、1型糖尿病は膵ベータ細胞のインスリン分泌能の絶対的欠乏という「身体の機能の障害」であり、長期にわたる安静は必要ありません。
厚労省に伺います。代謝疾患の認定基準には明記されていませんが、「身体の機能の障害」としてきちんと認定していますか。
〇政府参考人(巽慎一君)
お答えいたします。ご指摘の「身体の機能の障害」につきましては、国民年金法施行令別表中の2級の障害の状態に規定されており、代謝疾患による障害が別表の2級の障害の状態に該当すれば障害等級2級となります。
〇天畠大輔君
代読します。国年令別表に「身体の機能の障害」とあるにもかかわらず、認定基準に明記されていないのは恣意的ではありませんか。
実は、代謝疾患だけではなく、心疾患などすべての内部疾患の認定基準に明記されていません。別表の定めに反して2級は具体的な認定基準から「身体の機能の障害」を省き、認定上、軽視しています。更に言えば、別表では3級は療養が必要ないにもかかわらず、「長期にわたる安静を必要とする病状」を要件として加えるという姑息なことをしています。
一方、大阪高裁では、1型糖尿病を持つ原告一人ひとりの「身体の機能の障害」と「その機能障害から生じる病状その他の諸症状」が「日常生活の著しい制限」そのものだと認められました。日常生活が著しい制限を受けるか否かの認定において、「身体の機能の障害」をしっかりと考慮すべきです。
さらに、代謝疾患2級の認定において、基本的事項2級の例示には「労働により収入を得ることができないもの」とありますが、仮に就労していても、「日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」に該当するケースがあります。
認定基準に沿った考え方として、就労しているからといって2級に該当しないわけではないという認識で合っていますか。大臣、2択でお答えください。
〇国務大臣(武見敬三君)
委員ご指摘の点について、この労働していることをもって障害基礎年金の2級に該当しないということではございません。
〇委員長(比嘉奈津美君)
天畠君が発言の準備をしておりますので、お待ちください。
〇天畠大輔君
重要な答弁をありがとうございます。代読お願いします。
大阪高裁では、労働しているからといって2級が除外されるのではなく、職場からの援助で就労が継続できていることも重要な要素とみなされました。労働の有無で障害年金の認定を線引きしないでください。
大臣は前回質疑で、血糖コントロールの難しさ、日々の苦労を「重々認識をしている」と述べました。しかし、資料4のように、国の姿勢からはその決意が感じられません。訴訟の中で何度も繰り返された国の言葉があります。それは、「糖尿病による障害の程度を判断するに当たっては、糖尿病患者が適切に血糖コントロールをすることで健康な者と同様の生活を送ることができることを踏まえる必要がある」というものでした。しかし、この言葉は、幼少期発症の患者とその家族を励ますメッセージを言い換えたものです。障害年金を支給しない言い訳に使うことは断じてなりません。国はこのような姿勢を改め、血糖コントロールの大変さを障害年金認定の文脈で考慮する方法を議論すべきです。
では、裁判では具体的に何が「日常生活が著しい制限を受ける」と判断されたのか、ご存じでしょうか。資料五を御覧ください。各原告のどの要素が障害年金の認定に考慮されたのかを分析しました。
1日のうちに血糖値が乱高下し常時血糖値に応じた補食やインスリン投与などの自己対処が必要となる、無自覚に高血糖、低血糖となることも多いため、何をするにも常に血糖値を気に掛け、不安を抱え、慎重な配慮を要する生活を強いられる、症状が出ると回復のために一定の時間を要するなど日常生活が大きく損なわれる、重症低血糖は第三者の介助が不可欠となる。
このように、司法では、既に障害年金制度に事実認定レベルで社会モデルの考え方を取り入れています。インスリン分泌能など医学的な数値による基準が医学モデルの視点ならば、社会生活を営む上で機能障害がない人と比較した際の困難さ、そして社会の制度不備や理解不足によって生じる困難さを見るのが社会モデルの視点です。
判決当日には、日弁連も、「障害年金制度の認定基準に係る早急な見直しを求める意見書」を取りまとめ、翌週、武見大臣に提出しました。専門家も、障害年金制度に社会モデルを取り入れるよう抜本的改革を求めています。
さて、これだけの日常生活の困難さは、裁判を通して何年も掛けて証拠を積み上げた結果です。実際に認定する現場には何らかの指針が必要でしょう。どうしたら大臣が前回おっしゃったように「適切に認定」することができるでしょうか。
まずは、運用面の周知です。年金事務所では、「糖尿病は合併症がないと障害基礎年金が下りない」と、相談に来た当事者を追い返す事例が後を絶ちません。10代で1型糖尿病を発症した神奈川県在住50代の女性は、東京訴訟判決後の2022年に日本年金機構に直接問い合わせたのに、「糖尿病は厚生年金でなければ受給できない」と門前払いされました。未成年期に発症した患者は2級でなければ障害年金が受給できないため、今も厳しい状況に置かれています。
まず、厚労省に伺います。一般論として、日本年金機構が当事者からの問合せに、「糖尿病単体では障害基礎年金は下りない」、「糖尿病は厚生年金しか下りない」といった対応をするのは適切でしょうか。
〇政府参考人(巽慎一君)
お答えいたします。糖尿病による障害の程度につきましては、合併症の有無にかかわらず障害等級2級に認定している場合もあることから、ご指摘のような事実があるのであれば、適切ではないと考えております。
〇天畠大輔君
代読します。では、そのような門前払いとなるようなケースが生じないよう、日本年金機構に適切な対応を求める通達を出すべきではないでしょうか。大臣、いかがでしょうか。
〇国務大臣(武見敬三君)
現時点において議員ご指摘のような対応の事実が確認できていないため、直ちに通知を出すということは考えておりませんが、仮にご指摘のような対応がもしあったとすれば、これは問題でありますので、日本年金機構に対してしっかりと指導をしてまいりたいと思います。
〇委員長(比嘉奈津美君)
天畠君が発言の準備をしておりますので、お待ちください。
〇天畠大輔君
私が聞いた事例は一つや二つではありません。きちんと速やかに指導すべきです。では、日本年金機構はきちんと対応してくれますか。
〇参考人(大竹和彦君)
お答え申し上げます。日本年金機構では、障害年金の新規請求への相談対応に係る手順等を定めており、各年金事務所へ周知を行ってございます。当該手順書では、お客様が請求手続を希望される場合は請求書を受理することとしております。お客様の障害年金の請求意思を否定することがないよう、各年金事務所へ改めて周知してまいりたい。以上でございます。
〇天畠大輔君
代読します。また、大阪高裁判決で2級該当性が認められるに当たり、血糖コントロールに係る日常生活の困難さを示す様々な資料が提出されています。こうした資料も障害年金の申請時に参考資料としてきちんと受理され、認定する際に考慮されるという理解でよろしいでしょうか。日本年金機構より明確にご答弁ください。
〇参考人(大竹和彦君)
お答え申し上げます。障害年金を請求するに当たって提出が必要な添付書類につきましては法令等で定められておりますが、障害の状況、状態を示すその他の書類が提出された場合は参考資料として受理をし、その内容を踏まえた上で障害等級の審査を行っております。以上でございます。
〇天畠大輔君
代読します。その旨も併せて、各年金事務所にきちんと周知をしてください。
さて、障害年金を申請する際に、申請についての相談や代行を担うのが社会保険労務士です。糖尿病の方が障害年金を申請したいと思ったとき、社労士に相談することも想定されます。しかし、各社会保険労務士事務所のホームページを見ていると、糖尿病の1、2級を合併症による障害の程度により認定するものとし、合併症がないと糖尿病は障害基礎年金が下りないと掲載されている事例が散見されます。こうした表現は適切でしょうか。厚労省、お願いいたします。
〇政府参考人(巽慎一君)
お答えいたします。先ほどお答えしたとおり、糖尿病による障害の程度につきましては、合併症の有無にかかわらず、障害等級2級に認定している場合もあることから、御指摘の掲載内容につきましては適切でないと考えております。
〇天畠大輔君
代読いたします。ならば、全国社会保険労務士会連合会と連携して、こうした不適切な表現について注意喚起し、合併症がなく、糖尿病単体でも2級になるケースがあることを周知すべきではないでしょうか。大臣、いかがでしょうか。
〇国務大臣(武見敬三君)
民間の社会保険労務士事務所におけるホームページ等の掲載内容につきましては、誤解を与えない内容となるように、これまで全国社会保険労務士会連合会を通じて注意を喚起をしてきたところでございます。ご指摘を踏まえて、改めて関係団体と相談の上、注意喚起をしてまいりたいと思います。
〇委員長(比嘉奈津美君)
天畠君が発言の準備をしておりますので、お待ちください。
〇天畠大輔君
申請はよくても、認定の問題は残っています。代読お願いします。
実際に障害年金の審査を行う現場の混乱が目に浮かびます。現時点で政府が糖尿病の障害年金認定基準の見直しを考えていないことは承知しております。ただ、今後、専門家を呼んで糖尿病の障害年金認定のあり方を議論する際には、やはり「日常生活の著しい制限」とは何かというところから議論が必要ですので、社会モデルの視点は不可欠だと考えます。大臣の見解はいかがでしょうか。
〇国務大臣(武見敬三君)
この社会モデルということでありますけれども、障害を個人の特性ではなく社会に起因するものとみなす考え方と理解をしております。
ご指摘のこの議論の場としては、障害認定基準改正のための専門家会合などが考えられます。糖尿病に関する障害認定基準の見直しを行う場合には、障害者の権利の擁護であるとか、こうした社会モデルに詳しい方の意見も踏まえられるように、こうした専門家会合での議論の方法を含め、適切に検討してまいりたいと思います。
〇委員長(比嘉奈津美君)
天畠君が発言の準備をしておりますので、お待ちください。
〇天畠大輔君
社会モデルの専門家に意見を聞くだけでなく、当事者も含めてメンバーとして参画させてください。代読お願いします。
前回糖尿病の認定要領改正からまもなく10年がたとうとしています。医療の飛躍的な進歩もあり、糖尿病治療は劇的に変化しています。東京、大阪での判決を受け、糖尿病における血糖コントロールの難しさや、それに伴う日常生活上の困難さが障害基礎年金2級に該当することも明らかになってきました。
今、厚労省がすべきことは何でしょうか。大臣が答弁していたように、基準を改正するなら専門家会合ですが、今までのような社会モデルの視点を踏まえないままのやり方では意味がありません。また、糖尿病の障害年金1級、2級の基準については、「症状、検査成績及び具体的な日常生活状況等によっては更に上位等級に認定する」としか示されていません。この上位認定について、大阪高裁で示された「日常生活の著しい制限」に当たる具体的な項目を踏まえたガイドラインを作るという方法もあります。
多くの当事者が希望を持って生きられるよう、どうしたら障害年金制度に社会モデルを取り入れることができるのか、当事者や社会モデルの専門家とともに考えましょう。質疑を終わります。
〈配布資料〉