院内集会「障害年金改革待ったなし!障害年金法研究会「提言」が目指す改革とは?」で講演しました(2024年10月31日)
10月31日、院内集会「障害年金改革待ったなし!障害年金法研究会「提言」が目指す改革とは?」で講演しました。主催者である障害年金法研究会の提言を受け、天畠からは国会活動報告を行いました。以下に、講演内容を紹介いたします。
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参議院議員の天畠大輔です。本日は障害年金の改革を求める院内集会にお招きいただきありがとうございます。
私は14歳のときの医療ミスが原因で、重度身体障がいを負いました。現在は主に厚生労働委員会に所属し、病気や障がいをもつ方が、より生きやすい社会となるよう活動しています。そのひとつとして、障害年金制度の改善にも取り組んできました。本日は、その報告をいたします。まずこちらの動画をご覧下さい。
いま見ていただいたのは、2024年4月2日参議院厚生労働委員会の質疑ダイジェストです。現在の障害年金制度はこのような総論部分だけでなく、各論部分にも問題を抱えています。さらに運用上の問題もあり、これまで様々な角度から改善を求めてきました。
それでは、厚生労働委員会でのやりとりを紹介していきます。
まずは、時代遅れの障害年金認定基準についてです。
年金制度の根幹をなす国民年金法施行令や障害認定基準は、障がいのある方の社会参加が進んできている現代にそぐわない時代遅れの基準です。基準の文言が単に古くさいというだけでなく、障害年金のおおもとの基準が身体の状態ばかりに焦点を当て、当事者が社会との関係においてどのような困難を持つか、という社会モデルの視点が欠けていることが問題です。そこで、基本的事項の見直しを指摘しました。
しかし、大臣からは「基準を現時点では見直すことは考えていない」との答弁でした。厚労省の頑なな姿勢を崩すことはまだできていません。
次に、糖尿病の障害認定基準についても課題を示しました。
①糖尿病をはじめとする内部障害は症状が固定化されない特徴をもつにもかかわらず「長期にわたる安静を必要とする病状」という文言が実態と合っていません。
②質疑では、代謝疾患の認定基準に明記されていなくても「身体の機能の障害」としてきちんと認定しているか等、
③認定基準の不合理性を問いました。
厚労省は「明記せずとも身体の機能の障害として認定している」と答弁しました。
また、後ほど登壇される青木佳史(よしふみ)先生をはじめとする弁護団のご尽力もあり、大阪高裁は1型糖尿病患者の血糖コントロールにおける日々の苦労そのものを「日常生活の著しい制限」とする画期的な判決を出しました。私も国会で紹介し、裁判を経ずとも2級と認められるよう基準を見直すべきと訴えました。一連のやりとりは、働いていても、合併症がなくても、2級に該当する場合があることを認めたことになる、大変重要なものでした。
このように、質疑では、基本的事項や糖尿病の認定基準の不合理さを指摘しました。
①しかし今までのように社会モデルを理解しないまま今すぐ糖尿病の専門家会合を開いても、医学的指標に偏った2級以上の基準を作られてしまう危険もあります。明確な基準は一定程度必要ですが、最終的には個別の事情を勘案した総合的判断をすべきです。
②そのため質疑後は、社会モデルの視点をどのように取り入れるかを議論する土台をつくることに注力しました。
その取組の1つとして、厚労省年金局事業管理課長と面談を行いました。
③基本的事項について議論を求めたところ「あくまでただの例示」と問題を軽視。
④また「年金財政がゆとりがあるわけではない中で、生活上の困難さは年金で見るべきなのか結論が出ない」と問題を先送りにしています。
障害年金を適切に認定するために、今厚労省がすべきことはなんでしょうか。まずは控訴審判決を心から受け入れ、どうしたら障害年金を適切に認定できるか、早急に策を講じるべきです。そこで次に取り組んだのが、運用上の問題です。
「糖尿病による障害年金は合併症がなければおりない」という認識が広まっており、当事者が申請を諦めるケースが後を絶ちません。当事者からの問合せに「糖尿病単体では障害基礎年金はおりない/厚生年金しかおりない」と対応することは不適切です。質疑では厚労省と日本年金機構に対応を迫りました。
①大臣は「糖尿病は合併症の有無にかかわらず2級になる場合もある」ため「門前払いは問題」と明言し、機構理事長は「お客様の障害年金の請求意思を否定することがないよう、各年金事務所へ改めて周知する」と答弁しました。
②ちなみに窓口で、日常生活の困難さを示す書類が提出された場合は、参考資料として受理し審査にあたるということも確認しましたので、ぜひ参考にしていただければと思います。
さて、質疑後は、関係各所が、障害年金の現場対応の改善にむけて動き出しました。まず全国社会保険労務士会連合会から、都道府県社会保険労務士会へ、糖尿病の障害年金の認定において、不適切な記載をしないよう通知が出されました。
また、厚労省年金局より機構に、糖尿病は働いていても合併症がなくても2級に該当するケースがあることを改めて伝えていただくとともに、機構本部から各年金事務所に周知文が出されました。相談窓口だけでなく電話相談員にも周知したそうです。初期対応の手引きも改正され、障害年金に該当しないと窓口で判断し門前払いするのは「不適切」だと明記されました。これらの周知文書はDPIが年金機構に情報開示請求し、つい先日文書が公開されました。皆さまへの周知の方法を検討しているところです。いずれにせよ、今後も不適切な対応がなされないよう注視してまいります。
一型糖尿病などの難病患者や障がい者の社会参加の意欲をそいでいます。提言書や研究会の活動について一言を、とリクエストいただいたので、僭越ながら触れさせていただきます。提言書の10ページに現在の制度の課題として「受給を促すことはあっても、抑制につながることはあってはならない」とあります。これは非常に重要な指摘で、私も同じ問題意識です。実際、わずかに働いただけで年金支給対象外となるくらいなら活動を控えようと思う人は多いでしょう。しかし、現在は在宅にいながら働ける環境が整ったり、逆に障がいにより家にずっといるほうが困難な方もいるなど、想定されるケースは様々です。障害年金制度は彼らの社会参加への思いを後押しできるようなものでなくてはなりません。
また36ページでは、障害認定審査における手続保障が提案されています。そのなかに「形式審査から実質審査方式への転換」という案がありますが、私も重度訪問介護の障害区分認定の経験から同様の着想をもっています。大阪高裁の示した「日常生活の著しい制限」を実際の認定の現場で判断するためには、実質審査方式への転換が必要です。年金局の課長にも伝えましたが、大きな方針転換なので、具体的に検討するのは難しいとのことだったので、今後どうすればよいか、ともに考えられればと思っています。
大阪高裁の控訴審判決は多くの方に希望をもたらす素晴らしいものでしたが、厚労省は判決と同じ判断が認定の現場でできるのか、懐疑的な様子でした。そのため、認定基準に血糖コントロールにおける日々の苦労そのものが組み込まれるまでは、険しい道が予想されます。ならば、どのように「日常生活の著しい制限」を総合判断することのできる仕組みをつくるか、その議論は、今後も皆さまと続けてまいりたいと思っています。
今後の改革にむけた方策をまとめます。まずはきちんと社会保障審議会で、医学的アプローチだけでなく、生活に根ざした社会モデルの視点をどのように取り入れるか、具体的に議論していただくことが望ましく、私としても働きかけていきたいと考えています。
しかし、懸念もあります。質疑のなかで、大臣は社会モデルを「障がいを個人の特性ではなく社会に起因するものとみなす考え方」と述べました。ご存じの通り、社会モデルは、機能障がいと社会的障壁との兼ね合いで、障がいが生じるというもので医学的な指標も含まれますが、大臣の答弁からは理解の不十分さが伺えます。
本日ここにお集まりの研究会の皆さんは、弁護士、社労士、研究者、ソーシャルワーカーといった障害年金に関する専門家で構成されています。提言書を質疑で紹介したところ、委員の先生方も熱心にご覧になっていました。もし皆さまと厚労省の意見交換会を開くことができれば、社会モデルの視点を障害年金制度に落とし込む具体的なイメージがわくでしょう。そのような場が実現した暁には、私も一緒に勉強させていただければと思っています。
皆さまの活動が国の施策とつながり、障害年金制度が前に進むことを心から願い、私からの国会活動報告とさせていただきます。社会モデルにもとづく本当の年金制度とはなにか、ともに考え、変えていきましょう。ありがとうございました。