【能登半島地震被災地視察報告①】能登の「足」をどう支えるか――JDF能登半島地震支援センターの取り組み(2024年8月19日~21日)

大地震など震災が起きるたびに「障がい当事者たちは無事だろうか」「どんな思いで避難しているのだろうか」という思いに襲われます。今年の元旦、能登半島地震の報に接した時、その思いはひとしおでした。

すぐさま駆け付けたい気持ちとたたかいながら、今年の通常国会の質疑に必死に取り組みました。国会が閉会してようやく、木村英子参議院議員を通じてJDF能登半島地震支援センターの大野健志さんとつながることができ、2024年8月19日から21日にかけて、木村事務所、天畠事務所合同で現地を視察して参りました。連載形式で複数回にわたって報告いたします。

連載第1回目は、震災後の障がい者への移動支援の取り組みにフォーカスします。

移動支援の要となる「足」と「担い手」確保を

日本障害フォーラム(JDF)は、令和6年能登半島地震を受け、「JDF能登半島地震支援センター」を、2024年5月13日より石川県七尾市に開設しました。

きょうされん常任理事・社会福祉法人さくらんぼの会理事の大野健志さんは、能登半島地震支援センターで奮闘するスタッフの一人。

木村英子さん(前方右)、大野健志さん(後方右)、JDF能登半島地震支援センター事務局長の本田雄志さん(後方左)と和倉温泉総湯にて。

震災後の障がい者が今も直面する大きな課題の一つは「移動」と語る大野さん。もともと公共交通機関による移動の選択肢が少ないうえに、震災の影響による人手不足などが重なり、移動が困難な障がい者や高齢者の足がない状況は深刻です。現在も障がい者の通院や通所などの移動支援は、支援センターの重要な役割の一つになっています。障がい種別(身体障がい、知的障がい、精神障がい)にかかわらず、通院の移動支援は特にニーズがあります。

また、移動が困難で震災前は使えていたサービスが利用できない状況にも陥っています。たとえば、小学校6年生の知的障がいのある男の子は、輪島市の仮設住宅から特別支援学校に通っています。震災前は放課後等デイサービスを週3日、訪問看護を週3回利用していましたが、震災後は訪問看護を週1回だけ。その理由は、輪島市門前町と市街地を結ぶトンネルが地震で天井が崩落するなど大きな被害を受けたから。放課後等デイサービスまで30分で行き来できていたのが、1時間以上も迂回する必要があり、事業所側が送迎するには負担が大きいといいます。そこで、支援センターが送迎を担えばサービスを利用できるとのことでした。

支援センターではこうした移動支援のために、全国の障がい福祉事業所や石巻のカーシェアリング協会などからワゴン車1台、普通車1台、軽自動車1台、軽トラック1台の計4台を確保しています。カーシェアリング協会からの軽トラックの貸出期間は7月中旬で終了予定でしたが、地震の影響が長期化しているため、10月中旬まで延長できたそうです。現在はこれらの車両を活用して、支援センターのスタッフが無償で移動支援を行っています。

一方で、支援センターの設置は一時的なものであり、これらの移動支援を事業として継続していけるかが大きな課題です。たとえば、今回視察をした夢かぼちゃに福祉車両等の購入補助を行うことで、移動支援の受け皿になってもらえないかも検討されています。現在、夢かぼちゃには、障がい者の災害支援に特化したNPO法人「ゆめかぜ基金」の紹介で「ももくり送迎基金」という団体につながり、福祉車両を無償で貸し出してもらっています。東日本大震災においてもJDFが陸前高田市への支援に入り、移動支援を行っていましたが、徐々に地元の事業所に引き継いでいきました。しかし、能登は高齢化率が60%を超える自治体が多く、移動支援を担う運転手などの人手不足は深刻な状況です。

仮設住宅を案内する大野健志さん

介護輸送のルール緩和が鍵に

このような現状において、大野さんは今年3月に国交省が発出した「道路運送法における許可又は登録を要しない運送に関するガイドラインについて」が活用できるのではないかと考えています。

支援センターが地元のヘルパー派遣事業所に移動支援を引き継ぐにあたっては、事業所が車両を購入し、スタッフが運転することが前提となります。しかしこれまでは、福祉タクシーの事業として届け出(※)をしなければ、障害福祉サービスの報酬対象外でした(車への乗降介助等で介護報酬を収受しているため、有償運送にあたると解釈されていた)。そのため移動支援を必要とする人は、家族が運転する車に乗るか、タクシーを呼ばなければ、ヘルパーの支援を受けられなかったのです。

今年3月に国交省がその運用を見直し、車への乗降介助が報酬の対象であっても、それは運送サービスに対する報酬ではないため、届け出は必要ないという見解を出しました。これによって、事業所は許可なしで利用者を車で送迎できるうえに、乗降介助や目的地での支援、運転中の支援(運転手とは別にヘルパーが同乗する場合や停車して緊急で介助を行う場合のみ)が報酬の対象となります。

当事者にとっては、家族の負担やタクシー料金の負担なく移動支援を受けられ、地元の事業所にとっては、福祉タクシー事業の登録を要せず、車での移動支援を行うことで障害福祉サービスの報酬として収入が見込まれます。支援センターによる移動支援を継続していくにあたっては重要な見直しです。

一方で、人手不足は事業所に収入が入れば解消されるものではありません。次回は福祉分野の人材確保にフォーカスします。

※福祉有償運送等として道路運送法上の許可又は登録を指す。

文責:黒田宗矢(天畠大輔事務所秘書)