2025年12月16日 厚生労働委員会質疑「医療とピアサポートは、高次脳機能障がい者を支える車の両輪」
○天畠大輔君
代読します。れいわ新選組の天畠大輔です。
本日は、この後審議される高次脳機能障害者支援法案を念頭に、高次脳機能障がいのある方々が地域で安心して暮らし続けるための医療とピアサポートの体制について伺います。
高次脳機能障がいは、脳卒中や脳外傷により、記憶や行動、言語、感情のコントロールなどに障がいが生じ、生活全体に影響を及ぼします。症状が外見から分かりにくいため、適切な支援につながれず、未診断のまま生活に苦しむ方が少なくありません。
私自身、低酸素脳症の後遺症のうち、特に視覚に関する障がいは診断が難しく、高次脳機能障がいの疑いがありながらも、専門医の不足から多くの医療機関を転々とする「たらい回し」を経験しました。
平成30年度~令和元年度の厚労科研によるアンケート調査では、相談支援事業所を利用した高次脳機能障がい者のうち、約2~3割が未診断でした。これは、医療にすらつながれずに地域で困窮している方が相当数いることを示唆しています。
その背景には構造的な課題があります。救命優先の急性期医療で障がいが見落とされがちであること、そして退院後の生活期に専門的な知見を持つ医師が地域に極めて少ないことです。このため、適切な診断や説明を受けないまま地域に戻った当事者は、一般病院等での継続診療を受けられず、自分が障がいであることに気づけない「未診断」の状態のまま孤立してしまいます。医療へのアクセスの断絶こそが、当事者と家族を追い詰める大きな要因となっています。
このような状況にもかかわらず、「未診断」で孤立する当事者の実態や、高次脳機能障がいに対応できる医師の分布等の実態がきちんと把握されていません。高次脳機能障がい者がどこに住んでいても安心して医療にかかれるよう、高次脳機能障がいに対応できる医師や専門職を確保・育成していくためにも、まずはその実態把握に乗り出すべきと考えますが、大臣のお考えをお聞かせください。
○国務大臣(上野賢一郎君)
高次脳機能障がいの診断、治療につきましては、精神科あるいはリハビリテーション科など複数の診療科が関わりますので、その医師や医療機関の分布等の実態、これを的確に正確に把握することは現状なかなか難しい課題があろうかと思っておりますし、また、ご指摘のありました未診断で孤立する当事者、これも非常に大きな課題だと認識をしておりますが、
これにつきましても現状的確な把握は難しい状況であります。
しかしながら、関係する診療科が適切に連携をして患者の診断、治療に当たる、このことは大変重要でありますので、現在、都道府県、全都道府県に設置をしております支援拠点機関におきましては、まず、医師、専門職の方を対象に、高次脳機能障がいの支援に関する研修、これを実施をしておりますし、当事者の方あるいは家族等への相談支援、普及啓発も実施をしているところであります。
また、令和5年度からは、都道府県におきまして、地域支援ネットワークの構築、これを推進しているところであります。高次脳機能障がいの診断、治療に当たる医師、また医療機関、リハビリ機関、これをしっかりと把握をして、当事者の方が切れ目なく支援を受けられるように、その支援につながるように、協力をいただける医療機関等の確保を進めているところであります。また、関係機関が相互に連携、調整を図り、当事者やその家族等の支援に資する状況提供を行うなどの取組を実施をしております。
こうしたネットワークこれからも充実したものになるように行うことによりまして、委員からのご指摘のあったことにも対応できるように取り組んでいければというふうに思います。
○委員長(小川克巳君)
天畠君が発言の準備をしております。お待ちください。
○天畠大輔君
ネットワークが構築されるまで実態把握ができないでは遅過ぎませんか。代読お願いします。
答弁にありました通り、国は令和5年度から、各都道府県等に対して、地域支援ネットワーク構築のための予算を付けています。ネットワーク構築は大変重要ですが、現時点でこの事業を行っているのは8自治体にとどまり、実態把握に時間がかかりすぎます。早急に実態調査を行い、医療の確保に向けた具体的な計画、目標を立てるべきと考えます。
こうした課題に対し、医師や専門職の育成を進めることは急務ですが、同時に「医療の枠組み」だけでは解決できない難しさもあります。高次脳機能障がいの支援には、医学的知見だけでなく、その人が実際にどう暮らしているかという「生活の視点」が不可欠だからです。家庭や職場といった生活文脈の中で生じる困りごとは、病院の中だけでは把握しきれません。
そこで福祉の視点が必要になります。病院のソーシャルワーカーなど福祉につなぐ役割が重要な一方で、制度だけでなく、同じ障がいを抱え、日々の葛藤を乗り越えてきた経験を持つ「ピアサポーター」の存在も大変重要になります。医療が症状を診て、治療・療法などをして、福祉は生活に必要なサービスを提供するのに対し、ピアサポートは「生活の知恵」や「生きる勇気」を分かち合うことができます。当事者同士がつながり、互いの経験を社会資源として活用していく仕組みが、孤立を防ぐための最後の砦になると考えます。
しかし現状、ピアサポーターを配置する制度や予算が確立されておらず、自治体間格差が大きいのが実態です。支援拠点へのコーディネーター配置は進みつつありますが、ピアサポーターの配置実態は把握すらされていません。
当事者の経験知が支援の質を左右するこの障がいにおいて、国として計画的な育成・配置の方針を明確に示すべきではないでしょうか。国は令和3年度の報酬改定で「ピアサポート体制加算」を創設し、都道府県や政令指定都市が実施する「障害者ピアサポート研修」の受講を要件化しました。このピアサポート研修事業の活用をより一層進めながら、支援拠点へのピアサポーターの配置を進めるなど、具体的な取り組みを検討いただきたいと思いますが、大臣のお考えをお聞かせください。
○国務大臣(上野賢一郎君)
委員からご指摘のありましたとおり、ピアサポート、これは極めて重要だと考えております。各支援拠点におきましては、当事者の方も含めた高次脳機能障がいへの正しい理解を促進するための普及啓発であったり、あるいは医師や専門職のほか、当事者の方を対象とした高次脳機能障がいの支援手法等の研修も実施をしているところであります。
また、今委員からもご紹介のありました地域生活支援事業のメニューの1つであります障害者ピアサポート研修事業、これは自治体の状況に応じて柔軟に実施をすることが可能な事業ではありますけれども、この事業を活用して都道府県等がピアサポーターを養成する取組も行われております。
今後は、各都道府県に更にこの動きを広げていけるように努力をしていきたいというふうに思います。今後、地域の実情を踏まえながら、ピアサポーターが配置をされている障害福祉サービス事業所と先ほど来申し上げております支援拠点機関、この連携を図ることなどを今後検討していきたいと考えています。
○委員長(小川克巳君)
天畠君が発言の準備をしておりますので、お待ちください。
○天畠大輔君
当事者の先輩の言葉が何度も背中を押してくれました。支援拠点へのピアサポーターの配置も是非ご検討していただけないでしょうか。大臣、いかがですか。
○国務大臣(上野賢一郎君)
まずは、この法律に基づく各政策が着実に実行されるように努力をしたいと思いますし、その中で、今お話のありましたように、ピアサポーターの支援拠点への配置等につきましても検討はされるべきものだと考えています。
○天畠大輔君
代読します。
国として明確な方針がなければ予算もつかず、自治体任せのままでは地域間格差は広がる一方だと考えますので、ぜひ前向きに検討をお願いいたします。
今回の質疑を準備する中で、40年以上にわたり地域で高次脳機能障がいのある人を診てこられた医師の方からもお話を伺いました。単に診察を重ねるだけでは高次脳機能障がいのある人への理解は深まらず、当事者の方とともに出かけ、生活をともにする経験を通じて、当事者からしか学べないことを学び、やっと障がいのある人の気持ちも含めて理解できた、と語っておられました。だからこそ、ピアサポートが重要です。
医療だけでは生活上の困難が見過ごされ、ピアだけでは医療的判断に限界がある。だからこそ、両者をセットで整備し、連携させることが不可欠だと考えておりますが、その方針を明確にお示しいただきたいと思いますけれども、最後に大臣の意気込みをお願いいたします。
○国務大臣(上野賢一郎君)
様々なご提案、どうもありがとうございます。医療体制の整備、そしてピアサポート体制の整備、いずれも重要だと認識をしております。医療体制の観点では、地域支援ネットワークの構築を推進をして、医師や医療機関を確保する、またピアサポート体制の整備につきましては、支援拠点機関における当事者同士の支援に関する研修等の実施によって支援体制を充実をしていく。そのような方針が、そのような方向が大事だというふうに思っておりますので、法律の趣旨等も十分踏まえた上でしっかりとした政策を進めていきたいと考えています。
○委員長(小川克巳君)
時間が参っております。
○天畠大輔君
代読します。
まとめます。高次脳機能障害者支援法が成立した暁には、医療とピアサポートを一体的に進める仕組みを是非計画として位置付けていただくよう強く求めまして、質問を終わります。

