2025年11月27日 厚生労働委員会質疑「国立ハンセン病療養所の"永続化"議論は待ったなし」
○天畠大輔君 代読します。れいわ新選組の天畠大輔です。かつて、ハンセン病への差別から、憲法違反の隔離法廷が九十五件も開かれました。
その一つで、冤罪事件でもある菊池事件について、十一月十四日の予算委員会で取り上げました。高市総理も最高裁も、元患者と御家族に明白に謝罪しました。当たり前のことではありますが、高く評価します。菊池事件が再審開始されることを私は信じて疑いません。そこで、本日は厚労省に質問します。
まず、菊池事件の概要です。資料一。一九五一年、村役場職員の家にダイナマイトが投げ込まれ、Fさんが逮捕されました。当時は、差別的ならい予防法の下、地域ぐるみで患者を見付け、通報、強制収容が全国でありました。被害者は過去にFさんを熊本県に通報していたため、恨みによる犯行だと警察は見込み捜査裁判はハンセン病療養所の中で行われ、懲役十年。まともな審議も弁護もない、傍聴人もゼロ。
その後、Fさんが逃走中、その被害者が殺されました。裁判はまたも隔離法廷。裁判官や検察官はゴム手袋をはめ、調書をめくるのに箸を使用、人間扱いではありません。Fさんは無実を主張しましたが、死刑判決、執行がされました。
資料二。この菊池事件の隔離法廷について、熊本地裁は二〇二〇年、違憲判決を出し、確定しました。そして、来年一月末までに熊本地裁は菊池事件の再審の可否を決めます。
さて、昭和二十八年九月十六日付けで旧厚生省が各ハンセン病療養所宛てに出した厚生事務次官通知があります。ここでは、入所者が外出できる例の一つとして、刑事訴訟法に基づく出頭が挙げられていました。
しかし、最高裁判所は一律に隔離法廷の指定を継続していました。旧厚生省はこのような隔離法廷の実態を把握していましたか。把握していたとしたら、それを受けて最高裁ないし各ハンセン病療養所長に対して再度の注意喚起あるいは意見書の提出を行いましたか。厚労省よりお願いします。
○政府参考人(大坪寛子君) お答え申し上げます。昭和二十八年の最高裁判所の調査報告書、あっ、ごめんなさい、平成二十八年の最高裁判所の調査報告書によりますと、当時の資料に、昭和二十六年に国立ハンセン病療養所で開廷されたいわゆる特別法廷、これに厚生省の職員が傍聴をしていたという記載があることは事実でございます。
ただ、今御指摘の昭和二十八年の事務次官通知以降につきましては、当時の厚生省が特別法廷の実態を把握していたことを示す資料が確認できておりません。
したがいまして、そのお尋ねの点につきましてお答えすることができておりません。また、特別法廷の設置でありますけれど、一義的には最高裁判所が決定するものと承知をしておりまして、最高裁の決定事項について厚生省が積極的に意見をする立場にはなかったのではないかというふうに考えております。
○委員長(小川克巳君) 天畠君が発言の準備をしておりますので、お待ちください。
○天畠大輔君 旧厚生省の重大な職務怠慢です。代読お願いします。
先ほど挙げた昭和二十八年の事務次官通知では、入所者の外出制限の例外として、外出許可証明などの手続を明記しています。ですから、外出許可について把握しているはずの旧厚生省が隔離法廷の実態を把握していなかったことなど考えられません。隔離法廷は最高裁の決定事項だったので旧厚生省は積極的に意見をする立場にはなかったなどという言い訳は到底通用しません。時間の経過によって仮に資料による確認ができないにしても、結果として療養所における隔離法廷が見過ごされてきたことは厳然たる事実です。
旧厚生省は、入所者が隔離法廷にどのように出廷させられているのか実態把握すべきでしたし、その結果を踏まえ、少なくとも事務次官通知の再度徹底と開廷場所指定に関するそごについて、最高裁に対して注意喚起ないし意見書の提出を行うべきでした。
無らい県運動は、「恐ろしい伝染病から地域を守る」を至上命題に、都道府県が互いに競い合うことをあおって進められました。特に熊本県では、「県下一千の全警察官を総動員してしらみ潰しに調べ上げる」と当時の九州日日新聞も報じています。
さらに、菊池恵楓園園長の宮崎松記氏は、旧厚生省への意見書で匿名での通報を推奨しました。暗黒の収容体制です。無らい県運動における密告制度は、ハンセン病患者や家族を排除する加害者に地域住民を仕立て、差別を社会全体に広げました。それに対し、旧厚生省は歯止めの役割を何ら果たしませんでした。
国が総力を挙げて取り組んだこのような反人道的な政策を前にして、最高裁の隔離法廷設置を旧厚生省が無批判に追認していたことに間違いはありません。その責任を厚労大臣はどう受け止めますか。
○国務大臣(上野賢一郎君) 最高裁判所の調査報告書におきましては、過去に特別法廷の運用が行われたことは、遅くとも昭和三十五年以降については合理性を欠く差別的な取扱いであったことが疑われるとされているものと承知をしております。
ハンセン病問題に関する検証会議の報告書でも特別法廷について触れられているとおり、らい予防法による国の隔離政策により、ハンセン病元患者の皆様が人権上の制約を受けられたこと、ハンセン病に対する社会の厳しい差別、偏見を生じさせてしまったことについて、厚生労働大臣として真摯に反省し、深くおわびをするとともに、ハンセン病に対する偏見、差別の解消に向けて一層取組を進めてまいりたいと考えています。
○天畠大輔君 代読します。今回の質疑に当たり、改めて先ほど挙げた昭和二十八年の事務次官通知を厚労省から取り寄せました。
しかし、よく読むと、外出制限の例外を示す条文の番号が第十五条であるべきところ、第十三条になっているという記載ミスがありました。
その旨指摘したところ、初めて気が付いたとのことでした。発出から七十二年がたち、この間、総理談話や政府報告書の作成過程で何度も照会されてきたはずにもかかわらず、これが見過ごされてきたことは、厚労省の本問題に対する不誠実な対応の象徴と言わざるを得ず、看過できません。単なる見過ごしとは言えないと考えますが、厚労省の受け止めはいかがですか。
○政府参考人(大坪寛子君) お答え申し上げます。議員御指摘の転記誤りのありました通達集でございますが、これは、国立病院・療養所関係職員向けに、平成四年に国から、民間法人、当時の財団法人厚生共済会でありますが、によりまして発行された通知を集めた通達集でございまして、当該法人の編さん過程において転記誤りがあったことは事実でございます。
国立病院・療養所関係職員等においても、その転記の誤りに気付かないまま今日に至ったということでございます。繰り返しではございますが、この国立病院・療養所関係職員向けに発行されたごく限定的な通達集でありまして、通知の原本はもちろん正しい条名が記載はされているのでありますが、したがいまして、総理談話等々の制作に影響があったとは考えてはおりませんが、とはいいましても、こういった誤りが今後起きることがないよう細心の注意を払って努めてまいりたいと考えております。
○委員長(小川克巳君) 天畠君が発言の準備をしておりますので、お待ちください。
○天畠大輔君 レクに使われる通達集のミスが何と七十二年もほったらかしでした。おかしいと思いませんか。猛省を促します。代読お願いします。
次に、国立ハンセン病療養所の永続化について伺います。大臣は、先日の所信表明で、ハンセン病に対する偏見、差別の解消にも全力で取り組みますと発言されました。とても力強く思います。
私は、議員になってから各地の療養所を訪ねています。今年九月には熊本県の菊池恵楓園にお邪魔しました。資料三と四を御覧ください。
黒川温泉宿泊拒否事件は、熊本県内のあるホテルが元患者、入所者の宿泊を拒否した事件です。入所者自治会は抗議し、ホテル側が謝罪に訪れましたが、トップの責任を曖昧にする謝罪だったため、自治会は受け入れませんでした。
そのことが大きく報道された結果、全国から自治会へ誹謗中傷の手紙やはがきが約百二十通届き、約百五十件の電話が掛かってきたのです。「偏見とか差別とか言うのは的外れだ」といったむき出しの言葉の暴力でした。
入所者は、それらの手紙やはがきをまとめ、「差別文書綴り」という冊子にしました。歴史資料館にはこの冊子と誹謗中傷の封書の現物が展示してあります。菊池恵楓園は、これ以外にも、龍田寮事件、菊池事件、そして最近では旧日本陸軍による薬剤・虹波の投与実験により副作用を伴う死亡例が確認されていたことを明らかにするなど、たくさんの課題を抱えてこられました。
その背景には何があるのか、自治会の太田明会長代行に聞いたところ、「我々が差別、偏見を見過ごさず、その都度提起してきたから」とおっしゃっていました。目を背け、口をつぐみたくなる差別、偏見を直視し、世に問い、後世のために資料として残す、この一連の身を削るような活動を当事者の方々が行ってきました。
しかし、二〇二五年の今、入所者の平均年齢は八十八・九歳。既に自治会活動が停止しているところもあります。全国ハンセン病療養所入所者協議会の事務局長を務めた藤崎陸安さんは生前、「知らないことは良くないけれど、知ろうとしないことは罪だ」という言葉を残しました。当事者が残してきた出来事、資料を私たちが引き継ぎ、伝えていくために、立法や行政の立場から何ができるでしょうか。
一つは、国による強制隔離の過ちを後世に伝え、いまだ社会に残る差別、偏見を克服するため、納骨堂や歴史的建造物、歴史資料館といった個別の施設を残すだけではなく、療養所の敷地全体を基本的に国の管理で残すことだと思います。
一口に国立のハンセン病療養所といっても、その立地やそこでの当事者の方々の経験は様々ですフェリーでないと行けない香川県の大島青松園。静岡県の駿河療養所に到達するには山肌の一本道しかなく、公共交通機関はありません。思ったより急な坂が多く、手押し車椅子では歩いて回れずに、自動車で見て回ったところもありました。
一口に強制隔離といっても、具体的にどんな場所に隔離されていたのか、そこでどんな生活をしていたのか、その空間が残っていることで一人一人の姿が浮かびました。
そこで、大臣に伺います。個別の施設を残すだけではなく、療養所の敷地全体を基本的に国の管理で残すことが重要と考えますが、御見解はいかがですか。
○国務大臣(上野賢一郎君) いわゆる療養所の永続化につきましては、国の誤った隔離政策の歴史を後世に伝え、偏見、差別を解消していくため、厚生労働省としてもしっかり検討していかなければならない重要な論点だと考えています。
各療養所は、島であったり山間部であったり都市部であったり、様々な場所に立地をしておりますし、敷地も広大である場合が多いことから、療養所が所在する地域ごとに敷地の活用の仕方や要望事項も異なってくるのではないかと考えております。
このため、厚生労働省としては、療養所の所在するまず地元での議論がしっかり進むように、入所者自治会、療養所及び地元の自治体等が意見交換できる環境づくりを行っているところであります。
こうした場で関係者の御意向を踏まえつつ、ハンセン病訴訟の統一交渉団との意見交換も重ねることによりまして、療養所の永続化に関する議論を進めていきたいと考えています。
○委員長(小川克巳君) 天畠君が発言の準備をしておりますので、お待ちください。
○天畠大輔君 であれば、大臣、差別、偏見の解消をハンセン病問題基本法に明記すべきではないですか。代読お願いします。
現在のハンセン病問題基本法には、基本理念の第三条に何人もハンセン病元患者や家族への差別をしてはならないとあり、十八条には元患者や家族の名誉回復、追悼が掲げられています。
しかし、今大臣の御答弁にもあったように、ハンセン病療養所を国が永続化させることの目的は、元患者や御家族の被害や名誉の回復、追悼はもちろんのこと、国の誤った隔離政策の歴史を後世に伝え、差別、偏見を克服することですから、基本理念として書き込むべきです。
通告なしですが、大臣に伺います。差別、偏見の克服をハンセン病問題基本法の基本理念として明記すべきではないですか。
○国務大臣(上野賢一郎君) 重要な御指摘だと思いますが、先ほども申し上げましたとおり、その永続化の方法等につきましては、まずは療養所の所在する地元での議論を是非行っていただきたいと思っておりますし、また、統一交渉団との議論もその中で進めさせていただき、それも進めていきたいと考えているところであります。
そうした意見交換を重ねることによりまして、療養所の永続化の方法であったり、あるいは法改正が必要かどうか、これも含めまして議論を進めていきたいと考えています。
○委員長(小川克巳君) 天畠君が発言の準備をしております。お待ちください。
○天畠大輔君 差別、偏見の克服と永続化に対する国の責務を書き込む必要があると思います。改正のため、与野党垣根を越えた議論を議員の皆さんに呼びかけます。代読お願いします。
現在のハンセン病問題基本法は、入所者が減っても確実に十分な医療や福祉を受けられるよう、国や地方自治体に責務を課しています。しかし、入所者の高齢化がますます進んだ現在、入所者がいなくなられた後の在り方を見据える必要があります。誤った隔離政策の歴史を後世に伝え、差別、偏見を克服するため、国には療養所を永続化させる責務があるといった内容を盛り込むべきではないでしょうか。
ハンセン病問題基本法は議員立法です。当事者や国賠訴訟の弁護団など、支援者からは、この基本法改正に向けて臨時国会中にハンセン病問題の議員懇談会プロジェクトチームを再開するよう要請が来ていますが、現在まで実現していません。議員の皆さんに法改正の議論を始めるよう呼びかけたいと思います。
最後に、永続化に当たっての視点を一つ示したいと思います。全国の各園にある社会交流会館、歴史資料館の学芸員は、その地域のハンセン病問題に関する専門知識、資料収集や保全、常に変化する社会に合わせた展示や発信、調査研究も行います。どう考えても長い目で見て安定した職場環境が必要だと思います。
そこで、厚労省に伺います。現在、これらの学芸員が国立ハンセン病資料館、運営委託先からの派遣という形を取っている理由を御説明ください。また、学芸員が単年度契約の不安定な身分のまま関わっていることに対する問題意識を教えてください。
○政府参考人(大坪寛子君) お答え申し上げます。国立ハンセン病資料館につきましては、ハンセン病問題基本法に基づき設置をされております。
ハンセン病に対する正しい知識の普及啓発等を目的として、民間活用による運営業務に関する民間ノウハウ、これを導入するため、厚生労働省所管の他の資料館等と同様、運営業務に関する委託を行っております。
各療養所が運営しております社会交流会館につきましても、ハンセン病に対する正しい知識の普及啓発等を行うことが極めて重要でありますことから、国立ハンセン病資料館の運営委託事業の一環として社会交流会館へ学芸員の派遣を行っております。
また、お尋ねのありました学芸員の雇用契約でありますが、これまで単年度契約でございましたが、現在の委託先事業者に変わってから五年が経過していることもあり、更新を重ねて五年を経過した方につきましては、期間の定めのない労働契約へ転換することが可能となったところであります。
多くの学芸員の皆様が期間の定めのない労働契約へ転換する見込みであると考えておりますので、議員御指摘の問題は今後解消していくのではないかというふうに考えております。
引き続き、委託先と連携し、学芸員の皆様の雇用の安定に努めてまいりたいと思っております。
○委員長(小川克巳君) 天畠君が発言の準備をしておりますので、お待ちください。
○天畠大輔君 いやいや、解消しません。大臣、永続化のためには安定した雇用が必要だと思いませんか。大臣の言葉でお答えください。是非検討してください。
○国務大臣(上野賢一郎君) 委員御指摘のとおり、安定的な職場環境を確保することはとても大切であります。先ほど局長から答弁ありましたが、私どもとして、どういう対応ができるかということは十分考えていきたいと思います。
○委員長(小川克巳君) 天畠君が発言の準備をしております。お待ちください。
○天畠大輔君 ありがとうございます。是非検討をお願いします。代読お願いします。
まとめます。永続化の議論は待ったなしです。政府ももっと本腰を入れるべきです。御答弁にあった五年更新した人が期間の定めのない労働契約に転換するのは、労働法制上そうなっているからであり、当然です。厚労省には、安定した運営体制、安定した雇用という意識がまだ足りない。今後もっと強くその認識を持っていただきたいと求め、質疑を終わります。






