シンポジウム「ともにいるだけで学びになる~これからの協働センターはどうあるべきか、その可能性を考える」に参加しました(2024年2月5日)

インクルーシブ教育がなかなか進まない中、学校卒業後の生涯教育の場にも、障がい者は参加しにくい状況にあります。この課題を障がい福祉関係者や当事者だけでなく、地域の協働センター(=元公民館)と共有し、解決していこうとする挑戦的な取り組みがあります。認定NPO法人クリエイティブサポートレッツ(静岡県浜松市。以下レッツ)が文部科学省助成を受けて行う「学校卒業後における障がい者の学びの支援推進事業」です。2024年2月5日、この取り組みをもとにしたシンポジウム「ともにいるだけで学びになる~これからの協働センターはどうあるべきか、その可能性を考える」(文部科学省 令和5年度 学校卒業後における障害者の学びの支援推進事業)がありました。

天畠は議員になる前の2021年、レッツが刊行した「たけしと生活研究会」2020年度報告書の中で、介助者とインタビューを受けたのをきっかけに、レッツの発信する問いの鋭さに学んできたことから、今回もいち参加者として参加しました。

ご関心のある方はぜひ記録映像をご覧ください。

承認あってこその社会進出

レッツは、共生社会を目指すアートNPOです。重度知的障がいの久保田壮さんの誕生をきっかけに、母の久保田翠さんが2000年に立ち上げました。「もっとも大事にしてきたのは居場所づくり」と翠さん。重度知的障がい者は親元や施設、グループホームなど、一般の人と別の空間にいることが多く、どんな人たちなのか知られていない。そこでレッツは「街中に自分たちから出ていく」をコンセプトに、重度知的障がいの人にとどまらない居場所づくりの事業を展開しており、拠点の多くが浜松駅前の中心市街地に点在しています。
「安心できる、その人の存在自体が認められる、私がここにいて良い、という場所がだれにとっても必要。それがあってこその自己回復、そして社会に出ていける」と翠さん。アート(=文化活動、楽しいこと)を通じた場づくりを実践しています。

協働センターが障がい者を想定していない

シンポジウムで発言するクリエイティブサポートレッツ代表の久保田翠さん(右側)と、久保田壮さん(左側)

しかし一方で、街の側が重度知的障がい者を受け入れる環境は、どうでしょうか。まず、浜松市の地域づくり拠点である「協働センター(=元公民館)」に焦点をあてて解説と問題提起がありました。

2007年、浜松市は政令指定都市となるタイミングで、公民館の役割を整理し、生涯学習だけでなく地域づくりの拠点ともなるよう2013年度に制度を変更しました。この新しい公民館の名称が、協働センターです。おおむね一つの中学校区に1ヵ所設置されています。「住民にとって身近な窓口、人が集う気楽な場所、その地域ならではの活動。利用無料でWi-Fiも通っている、『今日暇だな』の時に来られる場所」(浜松市役所市民部市民協働・地域政策課の松下恵介さん)を目指しています。

この協働センターを対象にレッツが2023年度に行ったアンケートやインタビュー調査では、協働センターが障がい福祉分野の基幹相談支援センターや福祉施設とほぼ連携していないこと、また障害者を利用対象者として想定していないことが明らかになりました。

一方で障がい福祉分野側も、協働センターや文化施設を「社会資源」と捉えておらず、連携、参加する対象と思っていないことも分かりました。久保田翠さんは「協働センターは歩いて行ける距離にあって、住民にとって最も身近な場所。いろいろな相談を持ち込んだり、企画を出来る場なのに、その良さが活かせていない」「障がい児、高齢者、障がい者、と専門分化したサービスが充実すればするほど、いろいろな人が一同に会して交流できる所がなくなる。協働センターがそうなる可能性がもっとも高い」と指摘したうえで、「社会教育資源と福祉資源の連携、お互いを知る機会を作るために、協働センター内に地域活動支援センターを入れるなどはどうか」と提言しました。

権利条約批准から始まった、障がい者の生涯学習政策

登壇者による意見交換に先立ち、長く障がい者の社会教育に携わってきた国立市公民館館長補佐・井口啓太郎さんから、障がい者の生涯学習政策の解説がありました。井口さんは国立市での仕事のほか、2023年度から文科省の「障害者の生涯学習推進アドバイザー」として、全国で支援をしています。

日本では2017年、文科省が「障害者学習支援推進室」を立ち上げ、障がい者の生涯学習推進政策が始まりました。根拠となるのは、2014年に日本が批准した障害者権利条約24条「生涯学習の機会の確保」という条文です。また2016年には障害者差別解消法が施行され、国・自治体に合理的配慮が義務化されました。

公民館は社会教育法で住民に身近な社会教育の施設ですが、障がい者の社会教育に関わったことがある公民館は14.5%のみ(2018年文科省調査研究)と、障がい者にとって公民館や協働センターは身近なものになっていません。

国立市では1979年から「しょうがいしゃ成年教室」という、知的障がいのある人とない人がスポーツやクラフト、料理などともに活動する事業が続いています。公民館内の喫茶店を障がいのある人ない人が一緒に運営する「喫茶わいがや」も独自の取り組みとして注目されていますが、全国には広がっていません。この状況を解決するため、2023年度に全国でモデル事業が行われ、レッツの取り組みもその一つです。

また沖縄県那覇市の若狭公民館館長・宮城潤さんからは、「多様な人を包摂する公民館」と題して、公民館における生涯学習とは何か、お話がありました。沖縄は牧歌的で人とのつながりが強い地域だと思われがちだが、那覇はそうではない。地域のつながりは希薄で、若狭地区の自治会加入率は12%に過ぎないそうです。

ただ地縁が希薄とは言っても、地域の中には属性や利害に基づく小さなコミュニティがたくさんあります。若狭公民館ではシングルマザーの団体や在住ネパール人の協会などと連携して住民と協働事業を起こすことで、地域全体をゆるやかにつなげてきました。公民館の役割の大きな一つは生涯学習ですが、それは「iPhoneの使い方を学ぶとかスキルではなく、学びを通して価値観を更新し、新たな自分に出会う営み」です。公民館がその媒介になることで、まだ見ぬ人々、事象に対する住民の想像力を刺激し、自治を育むことを目指しています。

「ソフトな排除」をどう乗り越える?

最後に、「本来インクルーシブな場である協働センターとつながっていない障がい者が、どうやってつながれるか」とのテーマのもと、登壇者と会場全体での意見交換がありました。

井口啓太郎さん(国立市公民館館長補佐/文部科学省「障害者の生涯学習推進」アドバイザー)は、「ソフトな排除」という用語を紹介。制度上では差別されていなくても、実態として排除されている、というような意味です。たとえば公民館は本来障がい者でも、だれもが来ても良い場所ですが、行った経験がなければ「私の場所」と思えませんし、合理的配慮が義務化されていても、相談できる人がそこにいなければ、当事者も足を運びません。

そのため国立市公民館では、「知的障がいの人がそこで学ぶ」と明示的にわかるよう、「しょうがいしゃ成年教室」とタイトルをつけているそうです。あえて「しょうがいしゃ」とつけることで、公民館に来るチャンスが生まれます。宮城潤さん(那覇市若狭公民館館長)も同じように、「問題意識がありそうだなと分かれば、話を聞いてもらえそうだと人がやってくる」ので、積極的に発信をしているそうです。その際には、「専門性をすべて学ぶのは難しいから、専門家と連携する心構えを持っている」とわかるよう、気を付けていると言います。

また「ソファが置いてあって、テーブルにお菓子がある。だれでもおしゃべりをしてて良い雰囲気」「散歩のついでにトイレを借りる、夕涼みに行けるくらい」といった、だれでも無目的に入りやすい空間配置やデザインの重要性、協働センターの地域活動団体に障がい者福祉施設も積極的に登録してもらうなど、社会教育分野と福祉分野の垣根を超えるアイディアも出ていました。(文責:秘書 篠田恵)

最後に議員から一言

私は障害を負ってから今に至るまでに、様々な試行錯誤を経てコミュニケーション手段の幅を広げてきました。しかし、人はただ生きているだけではなく、排除されずに「ここにいてもいいんだ」と感じられる居場所が必要です。今回のイベントへの参加を通し、そのことを強く認識することができました。

どんなに重い障がいがあっても、好きな場所で、好きな人といたい、そのような当たり前の想いを実現できる社会にしていくために、尽力していきます。