言語障がいを「聴く」関係を、議会にも!ーー千一市議(神奈川県鎌倉市)×天畠大輔対談

政治家の命とも言える「言葉」。ではその「言葉」の発出に障がいがある人は、どうやって政治活動が出来るのか?議会での発言の権利が十分に保障されるには?ーー障がい当事者の自治体議員と天畠が語る対談シリーズ第2回目は、天畠と共通するこのテーマを抱える、神奈川県鎌倉市議の千一(せん はじめ)さんをお迎えしました。

千さんは、2001年に初当選してから再選を重ね、20年以上務めてきたベテラン市議。全身にアテトーゼ(不随意運動・凝縮)を持った出生時からの脳性麻痺により、手足、言語に障がいがあります。聞き手が慎重に聞いたり、慣れたりすれば分かる話し方ですが、天畠とは初対面のため、千さんの長年のボランティア秘書・千光(せんひかる)さん(通称)が聞き取り、再発話(リスピーク)する形でお話しました。

千一さんも天畠も、コミュニケーションにかなり体力を要します。事前のメールでのやり取りを踏まえて、当日は対談を進めました。通常のテキスト記事では、当事者と介助者で発言を作っていくやり取りを含め、お互い入り乱れる発言で成り立つコミュニケーションが本人発言としてまとめて表記されることが多いですが、今回は先読みや補足の様子も交えてお届けします。

長年くっついたり、離れたり…

身体的な障がいにより言葉が出にくい人にとって、慣れた介助者による先読みや補足説明がコミュニケーションの後押しになります。今回の対談では、議員どうしだけでなく、聞き取りとリスピーク、補足説明を行う千光さん、またチーム天畠も含めて自己紹介をしました。

左側がチーム天畠、右側が千一さんと千光さん

天畠(あかさたな):本日は鎌倉市議の千一さんをお招きして対談させていただきたいと思います。まず簡単に、自己紹介をお願いできますでしょうか。

千一(再発話):自己紹介ですか。じゃあ僕からやっていいですか。通称、千一です。戸籍名は中村博幸です。1期目の選挙のときは、鎌倉に知り合いが5人ぐらいしかいなかったし、落ちると思っていたけれど、受かっちゃった(笑) 駅の近くでビラをまいて、受かりました。

天畠(あかさたな):当時は(千さんの意思の通りに動きやすい)足でビラを配っていたんですよね。

千一(再発話):そうです。足でビラを配ってたら、お母さんと子どもが通りかかってきて、お母さんが子どもに「ばっちいね」と言っていた、そういう経験があります。

天畠(あかさたな):光さんも自己紹介お願いできますか?

千光:はい、私はボランティアの光と申します。私が18歳のときに千一と知り合って、途中、大喧嘩しつつ、くっついたら離れたりしながら。まあ今日はたまたまくっついている。そういう関係、ね。

千一(再発話):その通り(笑)

天畠(あかさたな):こちらのメンバーも紹介させていただきます。

斎藤(介助者):通訳介助者の斎藤です。私は大学が天畠と一緒で、18歳か19歳の時に知り合いました。それこそ途中は違う仕事についたりとか、別のところに住んでいたりとかで、くっついたり離れたり、今一緒にいるっていうタイミングです。

千光:同じです。ずっと一緒にはいられないですよね、人間だからね(笑)

黒田(秘書):秘書の黒田です。私も元介助者です。天畠とは18歳のときに知り合い、就職や留学を経て、天畠が議員になるタイミングで帰国して、いま秘書になっています。

千光:やっぱり。

千一(再発話):調子いいですね。

千光:「調子いいですね」って、俺に言ってるの?(笑)

斎藤(介助者):天畠もコミュニケーション介助が必要なので、続けてもらう、自分の介助に長く付き合ってもらうことが自分の生命線だから、とよく言っています。それこそ10代、20代のころに知りあって、今も続けている人がキーパーソンです。

(天畠の背景や今取り組んでいること等を)いろいろ共有していないと、代わりにしゃべったり、天畠の言いたいことを補足して、短い言葉でこういうことですよね、といった通訳が難しいので、なるべく長く続けてほしい、というのはよく介助者に言っていますね。

千一(再発話):天畠さんは、どこで山本太郎代表とお会いしたんですか。

天畠(あかさたな):みられ

斎藤(介助者):みられていた?

【天畠:手を引く(合っている、の合図)】

斎藤(介助者):補足します。れいわ新選組の木村英子さんと舩後靖彦さんが出馬したときの街頭活動に知り合いを通して呼んでいただいて、そこで天畠が短いスピーチをしたんですけど、そのときにたまたま代表も街頭にいて、天畠がステージにいるのを見て、認知をしてくださったと思います。

天畠(あかさたな):しん

斎藤(介助者):場所は新橋駅でした。

言語障がいのある議員の発言時間=休憩時間?!

言語障がいのある議員にとって、議会質問を他の議員と平等に行うことのハードルはとても高いのが現実です。天畠も議員になってからの1年間、国会各所に働きかけを行ってきましたが、ひとまず合意できる着地点にも、まだ届いていません。議員を20年以上続けている千さんも同じだと言います。

黒田(秘書)▶天畠:質疑方法の質問をしますか?

【天畠:手を引く(OK、の合図)】

黒田(秘書)▶千一:天畠から伺いたいことがあります。千さんの言語障がいに配慮して、鎌倉市議会には独自のルールがあると聞いています。

一般質問では、事前に用意した原稿は、議会職員が代読。再質問がある場合は議会をいったん休憩にして、職員が千さんの発言を聞き取るが、それにかかる時間が質問時間とみなされている、つまり聞き取りをしてもらっている間にどんどん質問時間が減ってしまうと伺ってます。しかし議員にとっては再質問こそが大事なので、今の方法は不平等だと千さんが著書に書かれていたのを天畠が読み、共感したということです。

「質疑時間に対する合理的配慮は、その後何か進展がありましたか」と質問しましたら、千さんから「進展はありません。時間をくださいと要望はしています。しかし一人の議員もなぜかおかしいと言ってくれません」との答えをいただいていました。これについて天畠からもう少し伺いたい、とのことです。

天畠(あかさたな):どういう(発言の)配慮があるのが、千さんにとって一番やりやすいですか?

千一:(発話あり)

千光▶千一:なんだろ、わかんないな。

千一▶千光:病気の名前。

千光▶千一:病気?何か病気の名前?

千一▶千光:そう。

黒田(秘書)▶千一と千光:コロナ?

千光:はい、コロナね。


千一(再発話):コロナになって、持ち時間は1時間くらいになっています。僕は1時間でいいから、再質問の聞き取りの時間を入れないでほしいと思います。天畠さんは聞き取りの時間は、入れないでやっていてうらやましいです。

千光:千さんの言葉を議会事務局が聞き取る時間の最中に、時計が止まらないので、再質問できないで終わっちゃうことがあります。 きちっと再質問ができるようにしてもらいたいということですね。

天畠(あかさたな):通訳はどのようにやっていますか?

斎藤(介助者)▶天畠:市の職員さんがってことですか?

【天畠:手を引く(合っている、の合図)】

斎藤(介助者)▶千一:聞き取りは市の職員さんがされているとのことですが、普段のコミュニケーションに慣れていない方が、どのようにやっているのですか?

千一(再発話):議会事務局職員の中でも、慣れた人をつけてくれます。ただしかし、それでも時間がかかる。文書を作る時間はやっぱり入れないでほしいと思います。

千光:議会事務局が聞き取りをして、(再質問についての)書類を作るんですよ。その書類を議長が確認する。それで初めて質問を再質問できるんです。聞き取り、文書を作るので時間がかかっちゃうんですよね。 

議会事務局も、慎重なんだと思うんですね。(介助者が行うような)独自の解釈みたいなものは議会事務局は絶対しないと思うんで。本当に素の言葉をそのまま、全部直訳すると思うんですよね。

天畠(あかさたな):私の例を伝えて。

斎藤(介助者)▶天畠:秘書さんから、ですか?

【天畠:手を引く(合っている、の合図)】

黒田(秘書)▶千一:天畠がどうやって質疑をやっているか、補足で説明します。天畠の場合は、基本的には質問要旨を事前に作って、代読原稿をもとに秘書が代読をするんですけれども、政府からの答弁に対して天畠が再質問したいであるとか、あと再質問はしなくてもちゃんと指摘してコメントはしたいところについては、今は速記を止めていただいています。

速記を止めている間は、質疑時間には含まれないので、その間に天畠が今のように「あ、か、さ、た、な話法」で通訳介助者に言葉を伝えて、速記を再開した後に、秘書ではなく通訳介助者がマイクを通して発言する。この形で今は、質疑を行っています。(再質問のための発話にかかる時間が)質疑時間には入らない点では、すごく前進しています。2019年に舩後靖彦議員が参議院議員になったときに、このやり方がいったん確立されたんです。

ただ、たしかに質疑時間には入らないっていう意味では配慮していただいてるんですが、速記止めって本来は議事進行がうまくいかないときとか、ちょっと揉めたりしたときに使うもの。速記が止まると映像と音声も止まり、議事録に残らないんです。テレビなどで中継を見ている人も、何が起きてるか分からないようなもので、本来はオフレコ扱いです。

天畠の場合は「あ、か、さ、た、な話法」が自分自身の発言なので、それをオフレコ扱いにされるのは自分の存在が消されているというか、秘書と通訳者しかしゃべっていないように見えるので、それはどうなんだと。

一方で、予算委員会に天畠が出たときは、質疑時間だけを止めて、音声と映像がそのままになるようにしてもらい、「あ、か、さ、た、な話法」が放送されました。厚労委員会や他の委員会でも同じ対応してくださいと、今求めているところです(※1)。

千一(再発話):天畠さんのYouTubeを見ていて、予算委員会のときは、天畠さんの「あかさたな」が聞こえたのに、他の委員会では聞こえなかったのは、おかしいと思います。でも、僕なんかもっとおかしいですよ(笑) 再質問のとき休憩なので、他の議員はどっか行っちゃう。

斎藤(介助者)▶千一:天畠の場合は、速記を止めるときに「委員長、配慮願います」とお願いをします。それで認められるとオフレコ時間が始まるんですけど、そうするとたしかに他の議員さんも気が緩むじゃないですけど、休憩時間みたいな雰囲気が流れるなという感じはありますね。

黒田(秘書)▶千一:天畠の場合はそれでもまだ、他の委員の人が着席して聞いているんですけど、千さんみたいに完全に休憩時間になっちゃうと、千さんの言葉を他の議員が聞く、そういう関係がなかなか生まれないですね。

(※1)2023年臨時国会(第212回国会)より、予算委員会と同じ「時間計測止め」が厚生労働委員会でも導入されました(2023年11月10日追記)

「目をつぶっても良い関係」をつくるには?

今の議会の仕組みでは、言語障がいのある千さんの発言を対等に聞く関係は、なかなか生まれにくい。そういった関係を一人ひとりがつくる、そして社会福祉や介護の分野と一般の人々をつなげることは、地域の小さな活動に思えます。しかし、より社会全体に影響力がある国政への働きかけも必要、と千さんは言います。

黒田(秘書)▶千一:千さんの著書では、鎌倉バリアフリー研究会に市長が来るようになったこと、また問題提起→調査の要求→予算の要求と長い時間をかけて実現した政策の事例がいくつも挙げられていました。実績が行政や議会に認められることで、また議会に長くいることで政策が実現しやすくなるということだと思います。「この点以外で、障がい当事者が長く議員を務めることの意義は、どこにあると千さんは感じていらっしゃいますか」と事前に質問したところ、以下の答えをいただきました。

「参議院議員、市議会議員どちらにしてもいろんな人から見られています。そのため影響力があるとは考えています。小学生から高校生まで面会やインタビューをしに来てくれたり、それをきっかけに文通をしたりしています。そのほかには、社会福祉についての問い合わせメールが直接たびたび来ます。それは、長く市議会議員をさせて頂いている影響力だと考えます。それだけで、十分な意義かもしれません。私はもっと社会福祉、介護の距離を近づけたいのです。私の本にも記載されておりますが、さらなる影響力がありそして、法律を作ることができる国会議員に私はなりたいのです」。これについて、天畠から質問したいことがあるとのことです。

天畠(あかさたな):社会福祉、介護、距離

斎藤(介助者):距離を縮めたいとお返事いただいていたものを詳しく、の話ですか?

【天畠:手を引く(合っている、の合図)】

斎藤(介助者):社会福祉、介護の距離を近づけたい、とおっしゃっていたことを、もう少し詳しく教えてください。

千一(再発話):えっとね僕はね、たとえば天畠さんのやっている「あかさたな」の言葉が誰にでもわかるようになれば素晴らしいなと思っています。他の議員もそれ(「あ、か、さ、た、な話法」)がわかって、会話ができれば素晴らしい。それと僕の言葉もだれもがわかってくださるといいなと思います。(私が)目をつぶっちゃっても(※2)、お互いわかり合えるような人間関係に誰もがなれればいいなと思っています。天畠さんとはもう少し仲良く、言葉がお互いわかり合えるような関係になりたいです。

天畠(あかさたな):私もそうなりたいです。今の政治に何が足りないとお考えですか?そういう関係が広がる社会になるためには…

斎藤(介助者):目をつぶっても良い関係?

黒田(秘書):なんで目をつぶっちゃうかが、お互いに理由がわかっている関係があるといいなと今、千さんがおっしゃっていましたが、ではそういう人間関係を広げていくのに今の政治に何が足りないのかお伺いしたい?

【天畠:手を引く(合っている、の合図)】

千一(再発話):根っこにくるのは経済政策だと思います。根っこはね。しかしそれをやっていくのも人間ですから。人間がわかり合える世界が必要だと思います。

天畠(あかさたな):インクルーシブ教育です、という回答が来ると思っていました。

千一(再発話):インクルーシブ教育は大事です。だけど(社会福祉や介護、インクルーシブ教育など今の社会に必要な政策を行うには一定の)お金がかかります。それを解決するのはやはり経済政策だと思います。

天畠(あかさたな):千さんはれいわ新選組の経済政策、特に消費税廃止についてはどう思われますか?

千一(再発話):もちろん賛成です。僕は20年以上前、議員になる前から消費税には反対していました。(また、)企業に対する税金の累進性を強める必要があると思います。

(※2)千さんの場合、目をつぶってしまうというのは、目を開けようとすればするほど閉じてしまうアテトーゼ(付随運動)の特徴。

長い間変わらない、郵便投票制度の壁

障がい者の社会参加、政治参加の基礎となる、選挙への平等な参加。「投票バリアフリー」とも言われます。投票方法が健常者に合わせて作られているため、障がいによっては投票をあきらめている人もまだ多くいます。郵便投票は投票の壁を除く方法のうち、強力な一歩ですが、対象者が非常に狭いという問題が長年解決していません。

天畠(あかさたな):千さんの議会での1日のスケジュールを教えてください。

千一(再発話):本会議のときは9時半から6時までやります。それが5日間ぐらい続きます。それから僕は総務委員会ですから、9時半から6時頃まで一日やります。お昼は休みますけど。

天畠(あかさたな):委員会は総務なんですね。投票のバリアフリーについても質問されますか?

千一(再発話):はい、します。病気・怪我・障がい・高齢などによって投票所へ行けない人を何とかしろって言ってます。しかし障害は一級の人しか郵便投票ができません。困ったことです。

千光:議会では郵便投票をもっと充実させろって質問してますね。

天畠(あかさたな):何級まで?

黒田(秘書)▶天畠:郵便投票の対象を拡大するとしたら、何級までか、どこまで拡大するべきかお考えを聞きたいってことですか?

【天畠:手を引く(合っている、の合図)】

黒田(秘書)▶天畠:天畠も倫選特という選挙関係の特別委員会で、郵便投票の対象拡大について質問したことがあるのですが、千さんが考える郵便投票の理想像というか、どこまで対象拡大すべきかといった、お考えはありますか?そういう質問で良いですか?

【天畠:手を引く(合っている、の合図)】

千一(再発話):はっきり決めることは難しいけど、身体障害者は少なくとも3級の方までは郵便投票ができるようにしてほしいと思います。郵便投票で過去に不正が起こったことが理由で、認められない状態にあるので、裁判が何回も起きている。天畠さん、がんばってください。

千光:市議会では議事者側の答弁は、これは国の問題だからっていうことで毎回逃げられちゃうんですね。

千一(再発話):20年間やってきて、国の法律だからだって言って逃げられたことが何回もあります。その首につけてるバッジは、参議院バッジですね。かっこいいねえ、それが欲しいです(笑)

千光:たとえば学校のエレベーターの設置は、今までも市議会議員が個別の案件について取り上げて付けさせたりしてきましたけど、でも本来はやっぱり国の法律でそういうものを定めるべきじゃないかと思いますけどね。よくそういうふうに言ってます、彼は。市議会議員は力がない。

天畠(あかさたな)立場を越えた運動で現状を打破できると感じます。運動も国会議員ひとりの力ではつくれません。一緒にやっていきましょう!

千一(再発話):またお会いしましょう。

天畠(あかさたな):次回は鎌倉案内をぜひお願いします。

千一(再発話):はい、(バリアフリーでなくて)行けないところも多いと思いますが、ぜひ来ていただければ嬉しいです。バリアありー(笑)