【2023年通常国会ハイライト⑤】分断を深める「宿泊拒否拡大」法案に反対しました

法案に問題多く衆議院で大幅修正

旅館やホテルといった宿泊施設について定める「旅館業法」という法律があります。この第5条では、基本的に「営業者は宿泊を拒んではならない」と定められています。旅館業にはすべての人、とりわけ弱い立場にある人が路頭に迷うことを防ぐ公的役割があるからです。

一方で、この5条には例外規定(=宿泊拒否要件。法改正前は、(法改正前は、「伝染性の疾病にかかつていると明らかに認められるとき」「とばく、その他の違法行為又は風紀を乱す行為をする虞(おそれ)があると認められるとき」「宿泊施設に余裕がないときその他都道府県が条例で定める事由があるとき」の3項目)があります。新型コロナウイルス感染症の蔓延を受けて、2022年の臨時国会では感染症対策を主な理由として、この例外規定(=宿泊拒否要件)を拡大する改正案が提出されました。体温測定などの感染症対策に正当な理由なく応じない場合など、宿泊拒否できる範囲を広げるものでした。結果的にこの臨時国会では審議されず、2023年通常国会に持ち越しとなりました。

通常国会では、審議前に衆議院側での協議の結果、大幅な修正が入り、「体温測定などの感染症対策に正当な理由なく応じない場合」に宿泊拒否できる条項などは削除されました(ただ附則では検討を継続することになっており注意が必要です)。しかし「営業者に対し、その実施に伴う負担が過重であって他の宿泊者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのある要求として厚生労働省令で定めるものを繰り返したとき」に宿泊拒否が出来る条項が残ったことから、障がい者への合理的配慮提供を制限しかねないとして、れいわ新選組は反対し、声明を発出しました。一般的に旅館業法は重要法案とされていませんでしたし、他会派はすべて賛成でしたが、障がい者にとってこの旅館業法改正は大きな問題ですから、一石を投じなければと考えました。

「過重な負担」という文言の問題

なぜ、「営業者に対し、その実施に伴う負担が過重であって他の宿泊者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのある要求として厚生労働省令で定めるものを繰り返したとき」の条項が問題なのか。質疑で政府にぶつけました。

天畠:資料1をご覧ください。障害者差別解消法においては、「過重な負担」という文言は、「負担が過重でないときは合理的な配慮をしなさい、または努めなさい」という文脈で使われています。つまり「できないことをすべきだ」と求めているのではなく、利害関係者双方の「建設的な対話」に基づき、「無理なくできることを探ろうとする」関係づくりを要請しているのです。資料2にあるように、障害者基本法でも同じです。

ところが、資料3をご覧ください。本案では、宿泊業者にとって過重な負担とサービス阻害のおそれがあれば、その要求を退けるだけでなく、その人物の宿泊までも拒否するという大変厳しい内容を定める法文となっています。言い換えれば、全く逆のベクトルで「負担が過重」という文言が使われているのです。

2023年6月6日 厚生労働委員会質疑(旅館業法改正案審議)「分断を深める宿泊拒否拡大に異議あり」

障害者差別解消法において「合理的配慮」は、相互の建設的対話を通して、どんな配慮が適切かを決めていくものだ、と基本方針に定められています。しかし旅館業法改正案では、「過重な負担」かどうかを判断する主体は事業者側です。この意味で改正案は、障害者差別解消法の趣旨から逸脱するものです。

厚労省は今後省令(国会審議を経ない)で、過重な負担の範囲を明確化、限定化するとのことですが、さまざまな措置を講じたとしても、障害者差別解消法の文脈から離れた「過重な負担」という文言を含むこの法案が、民間事業者の合理的配慮提供を後退させる可能性は払拭できません。この点については、障がい者団体からも懸念の声も出ていました。これまで政府と当事者が何とかつくり上げてきた権利擁護の仕組みを、「水泡に帰する」改正と言っても良いのではないでしょうか。

そもそも議論の枠組み設定が適切なのか?

今般の法改正の基となった「旅館業の見直しに係る検討会」では、感染症対策が出発点だったものの、モンスタークレーマーやカスタマーハラスメント対応も俎上にのりました。本来、カスタマーハラスメント問題は、旅館業のみならず、民・民契約における「優越的地位の濫用」や、「買い手が売り手よりも圧倒的に強い」という日本の商習慣全体の中で議論すべき事柄であり、感染症対策や旅館業の宿泊拒否と、まったく別問題です。しかし政府が迷惑客や感染症対策など様々なものを一緒くたにし、その結果、合理的配慮を阻みかねない状況が出来てしまいました。

日本の感染症対策の基本をなす感染症法は、ハンセン病回復者やHIV陽性者等に対する偏見差別が存在した歴史的事実を教訓として制定されました。しかし、今回の旅館業法ではその趣旨が十分活かされていません。そもそも法改正の検討会は業者側と有識者だけが参加しており、ハンセン病回復者や障がい者はヒアリングの対象にすぎませんでした。

そもそも、感染症対策に協力しない宿泊者に必要な対応は、本来、宿泊拒否なのかにも疑問が残ります。地域の保健所や医療機関との連携の下で、救援、保護、見守りの観点からの新たな対応や支援がされるべきです。新型コロナウイルス感染症の蔓延下で、旅館業は宿泊療養という公的な、非常に重要な役割を果たしました。その姿勢を踏みにじるような、また世の中の分断を深める方向のこの法改正は、公である政府が先導してはいけないのではないのでしょうか。

法案は賛成多数で可決しました。「本法案が成立した場合には、旅館、ホテルの現場で適切な対応が行われるよう、どのような事例が宿泊拒否事由にあたるかも含め、障がい者やハンセン病元患者等の団体などからも意見を伺いながら政省令や指針を策定したい」と厚労省から答弁があったので、今後も動向を注視してまいります。(文責:秘書 篠田恵)