【能登半島地震被災地視察報告②】福祉分野の人材確保(2024年8月19日~21日)

人材確保は「安定処遇」から

被災地において福祉に携わる人材をいかに確保するかという質問に対して、社会福祉法人弘和会の畝和弘理事長はこう答えました。

「もちろん、賃金は重要です。しかし、賃金だけで人は集まりません。安定した処遇、これがポイントになるんです。」

畝理事長いわく、安定した処遇とは、たとえば金沢市など県庁所在地の正規雇用公務員又は準公務員として採用する、在籍型出向などの形で初めの何年かは被災地で被災者を支援し、その後は慢性化する福祉人材不足のエリア(金沢、加賀、能登)に定期的に出向するというイメージ。福利厚生は公務員並みにするということだそうです。在籍型出向にあたっては、石川県に対して520億円の復興基金が投入されているので、この基金の一部を使って全国の自治体とのマッチングや賃金格差を埋めることを行ってほしいという希望が寄せられました。

社会福祉法人弘和会の畝和弘理事長(左)は「人材確保のポイントは安定処遇」と力説する(グループホーム「海と空」にて)

全産業より8万足りない介護職賃金

さて、まず最初の賃金問題とは、以下のような事実です。

介護・福祉従事者と全産業平均との賃金格差は、長年続いている課題です。全国の介護職でつくる労働組合「UAゼンセン日本介護クラフトユニオン(NCCU)」が組合員の給与について調査したところ、2022年の平均年収は392万4000円で、全産業平均との格差は104万1700円に上っています。1ヵ月あたりでは8万6808円となります。

政府は「福祉・介護職員等処遇改善加算」によって、令和6年度に2.5%、令和7年度に2.0%のベースアップを実現すると言いましたが、これでは格差是正は程遠いと言わざるを得ません。れいわ新選組は「国費を年間3兆円投じて介護従事者の月給を10万円アップして人手不足を解消すべき」と訴えています。

このような賃金格差是正よりもさらに重要だと畝理事長が指摘するのが「地方公務員としての安定的処遇」なのです。たとえ全産業平均並みの賃金であったとしても、その雇用が数年先どうなっているのか分からないような状態であるなら、労働者はその仕事に真剣に打ち込めるでしょうか。目の前で支援を求めている人々に対して心から寄り添うことができるでしょうか。

人々の命や健康に関わるエッセンシャルな公務分野を真に充実させようとするなら、まず第一に取り組むべきは、その分野で働く人々の雇用環境の改善であるべきです。畝理事長は、処遇改善のもう一つの施策として、介護職員の家賃補助の必要性も指摘しています。厚労省の調べによると、家賃補助および住宅手当ての全体平均は17,800円です。諸手当や福利厚生面で一つひとつの処遇改善を積み上げ、介護従事者の労働条件全体を底上げしていくべきだと実感しました。

ここでいう「安定処遇」は「のほほんと気楽にできる仕事がいい」ということでは断じてありません。大震災など人間の生死にかかわる重大事態に対応できる地域社会の決定的要素がここにこそある、ということなのです。

震災前、弘和会には75人の介護従事者がいたそうです。しかし震災によってそのうちの49人が離職しました。その多くは家庭の事情だったそうです。すなわち、小さい子どもがいればいるほど、教育上の問題から金沢に移らざるを得なくなってしまうのだそうです。

輪島市役所本館2階の職員休憩室で定期的に開かれている「奥能登地域自立支援協議会」

災害救助に「福祉」の視点を

「構造改革」の名の下、「民間でできることは民間で」という大号令によって公務部門の縮小と非正規雇用の拡大が急速に推し進められてきました。その結果、日本社会は自然災害やパンデミックに対してきわめて脆弱で無残な姿を露呈し続けています。そしてその現場で真っ先に見捨てられ置き去りにされるのが、貧困層、高齢者、子どもであり、障がい者たちなのです。

畝理事長は「災害救助法には『福祉』という概念が無い」と言います。地域の中で在宅で頑張ってきた要援護者、障がい者、高齢者が被災して避難生活を送った後、ふるさとへ戻って生活する、あるいはふるさとへ戻るための生活を整えるスペースを確保するといった手立てが保障されていないのだそうです。弘和会のサービスを利用していた障がい者は震災前60人いましたが、現在は30人になってしまいました。

 災害救助、被災者支援という目的遂行を前にして、最も困難を抱える人々が最も後回しにされるような非道は許されません。最も困難を抱える人間に対して最初に差し向けられるべきは、血の通った人間のまなざしと手であるべきです。真の意味での人材確保とは、そのような手当てを厚くしていくことに他なりません。

文責:中島浩(天畠大輔事務所秘書)

「是非また来てください!」と笑顔で送り出してくれたスタッフの皆さんと記念撮影