2025年5月29日 厚生労働委員会質疑(労働施策総合推進法等改正案審議)「カスハラ対策と障がい者の権利保障――線引きと共存の課題」
〇天畠大輔君
れいわ新選組の天畠大輔です。カスハラ対策と障がい者の権利保障の両立について伺います。代読お願いします。
本法案にはカスタマーハラスメント対策の強化が盛り込まれています。労働者をカスハラから守るため、事業者に対してその対策を義務付けるものです。
昨年12月の厚生労働委員会において、我々障がい者が、障害者差別解消法に基づき社会的障壁の除去、つまり合理的配慮を求めることは、一般的にカスタマーハラスメントにはあたらないと大臣は答弁しました。それを前提に質問いたします。
カスハラ対策の必要性については異論がありません。一方で、カスハラ対策は、労働者の保護と同時に、顧客等の権利保障が侵害されないよう配慮することが求められる点で、他のハラスメント対策と一線を画すと考えます。特に私は、障がい当事者の立場から、いまだ差別や偏見は解消されず、合理的配慮を受けられない場面が多い中で、カスハラ対策の強化が障がい者の正当な権利要求を萎縮させる懸念を拭えません。
本日は、労働者の保護と障がい者の権利保障を両輪として対策をいかに進めていくのか議論したいと思います。
資料1をご覧ください。改正案33条では、カスタマーハラスメントについて、雇用管理上必要な措置を講じることが事業主に義務付けられています。そこで、カスハラにあたる行為は「社会通念上許容される範囲を超えたものにより当該労働者の就業環境が害されること」と定義されています。「社会通念上相当な範囲」という文言には注意が必要です。

資料2をご覧ください。雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会報告書に、社会通念上相当な範囲を超える言動の内容及び手段・態様の例が示されています。

まず「社会通念上相当な範囲」という文言は極めて曖昧で、事業者側の判断の余地に広がりがあり過ぎる点に懸念を抱きます。さらに、言動の内容が正当な権利要求でも、その手段に問題がある場合はカスハラに該当する可能性が示唆されています。
例えば、障がい者が事業者に社会的障壁の除去を求め、時にそれが難しいとき、理由の説明や代替手段の検討には相当な時間を要する場合があります。それが「長時間の拘束」と捉えられないでしょうか。また、障害特性による行動が外形的には、社会通念上、相当の範囲を超えている場合もあり得ます。その際も付き添っている介助者などに事情を聞き取り、配慮が可能な場合が必ずあります。その判断を事業者が適切にできるでしょうか。
資料3をご覧ください。昨年3月20日付けの東京新聞朝刊です。車椅子利用者が映画館で車椅子席以外の席を希望し、段差があったためスタッフの手を借りて利用することができました。しかし、上映後にスタッフから「この劇場はご覧のとおり段差があって危ない。手伝えるスタッフも時間があるわけではない。今後はこの劇場以外で見てもらえるとお互いいい気分でいられると思う」と言われました。その後、映画館の運営会社はこの対応を不適切として謝罪したわけですが、本件についてご本人がSNSへ投稿すると、「特例対応はハラスメント」「優遇されて当たり前の考えは捨てろ」といった誹謗中傷があふれました。

ここで内閣府に確認します。一般論として、本件のような事案は、障害者差別解消法における合理的配慮の不提供に該当する可能性があり、また建設的対話の不足であると考えますが、内閣府の見解をお聞かせください。
〇政府参考人(江浪武志君)
お答え申し上げます。ご指摘の個別の事案についてお答えすることは困難ですが、一般に障害者差別解消法では、事業者に対し障がい者から社会的障害の除去の求めがあった場合、その実施に伴う負担が過重でないときは合理的配慮を提供することを義務付けております。
同法の基本方針には「過重な負担」の基本的考え方が示されており、事務・事業への影響、物理的・技術的制約や人的・体制上の制約などの実現可能性の程度などを考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要であるとしております。
仮に過重な負担であると事業者が判断した場合であっても、事業者と障がい者の双方がお互いに相手の立場を尊重しながら「建設的対話」を通じて相互理解を図り、代替措置の選択も含めた対応を柔軟に検討することが求められるものと考えております。
〇天畠大輔君
代読します。ご答弁いただいた法律の趣旨に照らせば、本件は合理的配慮の提供義務を怠っており、建設的対話の重要性を現場が理解していなかったことは明白です。ここでわかることは3点です。
1点目は、SNSでの反応が示すように、障がい者への合理的配慮は社会に浸透しているとは言い難く、いまだにわがままとか特別扱いだと捉える人がたくさんいることです。私もよく映画館に行きますが、車椅子席は前方に配置されていることが多く、スクリーンを長時間見上げるのは首への負担が大きいです。なので、席に移乗できるのであれば、自分の好きな席で見たいと思うのは、わがままではなく、当たり前の願いだと思います。
2点目は、たとえ合理的配慮の内容について対応が難しいケースでも、代替案の提示など合意できる一致点を探る建設的対話が法令上求められているわけですが、その意識がいまだ醸成されていないことです。昨年4月8日付けの朝日新聞の記事によれば、この方が問題の映画館を利用したのは4回目で、過去3回は同じ合理的配慮を受けられたそうです。仮にそのとき対応が難しかったとしても、その理由の丁寧な説明や代替案の提示などの対話がまず先であり、利用の拒否は明らかな差別です。
3点目は、内閣府が先ほど答弁で触れていた「過重な負担」が合理的配慮を断る言い訳に使われる懸念があることです。これは記事の中で日本障害者協議会の藤井克徳代表も言及されています。この事例では、スタッフの時間がないという理由で利用を断ったわけですが、その後の話合いで劇場内のスロープ設置や車椅子スペースの増設につながったそうです。ここでも建設的対話の重要性がわかるかと思います。対話なしに過重な負担だから断るということが不当にカスハラ扱いすることにも発展しかねないと考えます。このような状況において、障害者差別解消法で合理的配慮の提供が義務付けられているから問題ない、大丈夫だと自信を持って言えるでしょうか。
障がい当事者団体のDPI日本会議は、昨年11月にカスハラ対策の法制化にあたっての要望書を厚生労働大臣宛てに提出しています。社会的障壁の除去を求めること等はカスタマーハラスメント行為にあたらないと明記すること、合理的配慮の提供義務の遵守については合理的配慮の具体例を列記して周知することなどを求めています。
やはり、カスハラ対策を進めるうえで、正当な権利要求との線引きを明確化することが極めて重要です。この法文からそのメッセージが明確には読み取れません。大臣、障がい者の権利要求が萎縮しないよう、差別が生まれないよう国がしっかり指針を示していく重要性を認識されているか、明確にお答えください。
〇国務大臣(福岡資麿君)
本法案において、事業主に義務付けることとしておりますカスタマーハラスメントに関する雇用管理上の措置につきましては、労働政策審議会における議論を踏まえまして、指針等において具体的な内容をお示しをすることを予定をしております。
この労働政策審議会の議論におきましても、障害者差別解消法に基づく合理的配慮の提供義務を遵守する必要があることは当然のことであることを指針等で示すことが適当であるとされておりまして、この指針の策定にあたりましては、こうした建議の内容も踏まえまして、検討していく予定でございます。
〇天畠大輔君
代読します。指針で示すと言いました。迷惑客の宿泊拒否を可能とした改正旅館業法においては、指針の策定にあたって、障がい当事者が検討会のメンバーとして参画したうえで、様々な障害種別の団体にヒアリングを行い、多くの具体例を引き出し、指針に盛り込むことができました。
カスハラ対策に関する指針の策定にあたっても、障がい者への偏見・差別がなくならない社会において現場で正しい運用がなされるよう、障がい当事者が委員として検討会に参画し、様々な障害種別の団体へヒアリングを行うと約束してください。大臣、いかがですか。
〇国務大臣(福岡資麿君)
まず、先ほど申し上げましたとおり、指針の策定にあたりましては建議の内容も踏まえまして検討していく予定です。この指針の策定にあたりましては、実態をよく把握して検討することが重要であると考えておりまして、なんらかの形で当事者の方々のご意見を伺いながら進めてまいりたいと思います。
〇委員長(柘植芳文君)
天畠君が発言の準備をしておりますので、お待ちください。
〇天畠大輔君
「なんらかの形で」では不十分です。障がい当事者とともにしっかり議論するとお答えください、大臣。
〇国務大臣(福岡資麿君)
ご指摘がありましたように、その障がい当事者の方々のご意見を聞くということは大変重要であるという認識は共有をしております。ただ、このカスタマーハラスメントにつきましては、すべての業種に関係するものでありますため、当事者というのは当然多岐にわたります。すべての関係者の方々に労働政策審議会に参画いただくことはおのずと限界がございまして、現実的ではないというふうに考えております。そういった意味で、障がい当事者の方々についてはなんらかの形でしっかりご意見を伺ってまいりたいということを申し上げたところでございます。
〇委員長(柘植芳文君)
天畠君が発言の準備をしておりますので、お待ちください。
〇天畠大輔君
障がい当事者の意見は重要であると認めますね、大臣。
〇国務大臣(福岡資麿君)
当然、今回このハラスメントを定めるにあたりまして、いろいろな、様々な関係者の方々いらっしゃいます、その当事者の方々も含めて、様々な方々のご意見というのは重要であるというふうに認識しています。
〇委員長(柘植芳文君)
天畠君が発言の準備をしておりますので、お待ちください。
〇天畠大輔君
ならば、対話を通じて指針を作るべきです。代読お願いします。
本日の参考人のご意見からも、障がい者などの視点が指針に盛り込まれる必要性は共有できたかと思います。特に高木りつ参考人からは、対話の中に障がい者の方々も参画し、言いにくいことも含めてしっかり議論して一緒に指針を作り上げてもらいたいとの趣旨の発言がございました。指針の策定が双方の立場や状況を理解し合いながら社会全体で共存、共生できる仕組みやマインドをつくる一つのきっかけになればと考えておりますので、大臣には引き続き前向きな検討を重ねて求めます。
時間の関係で、質問4は飛ばします。次に、カスハラ対策にあたっては、正しい障害特性の理解、接し方を学ぶ研修の実施は両輪であると考えます。法施行にあたっては、カスハラ対策の推進と両輪で研修の実施促進を行うべきと考えますが、厚労省の見解をお聞かせください。
〇政府参考人(田中佐智子君)
カスタマーハラスメント対策を講じるにあたりましても、障害者差別解消法に基づく不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮の提供義務を遵守する必要があることは当然のことでございます。カスタマーハラスメントに関する指針等に明記した上で、誤った対策がなされることのないよう、しっかり周知を図ってまいりたいと思います。
障害者差別解消法においては、事業所管ごとに主務大臣が事業者が適切に対応するために必要な事項を定めた対応指針を策定をすることとされており、現場で本法の趣旨が徹底されることが求められております。また、内閣府では、企業における対応指針の職員への周知・研修等の取組状況の調査を行い、好事例の紹介等を行うこととしていると承知をしております。
厚生労働省としても、こうした調査や好事例の収集・発信にも協力し、改正法の施行にあたっては、合理的配慮等についての事業主の理解促進や企業における研修の着実な実施が図られるよう取り組んでまいります。
〇委員長(柘植芳文君)
天畠君が発言の準備をしておりますので、お待ちください。
〇天畠大輔君
旅館業法のときのように国が研修ツールを作成すべきと考えますが、厚労省、いかがですか。
〇政府参考人(田中佐智子君)
お答えいたしましたように、合理的配慮の提供義務を遵守をする必要があることは当然のことでございますので、指針等に明記をした上で、誤った対応がなされることのないよう、しっかり周知を図ってまいります。
〇天畠大輔君
代読します。改正旅館業法の施行にあたっては、迷惑客の宿泊拒否が可能となることから、迷惑行為にあたらない合理的配慮の具体例を含めて改正の趣旨を理解するためのパンフレットや、障がい者に対する接遇マニュアル、動画など、国が率先して研修ツールを作成しました。その検討会には障がい当事者も委員として参画していました。
指針策定への当事者参画はもちろんですが、研修の実施をただ促すのではなく、カスハラ対策を一つの契機として指針をわかりやすく伝えること、そして、障がい者への合理的配慮もより一層進めるために研修ツールの作成も検討すべきと重ねて申し上げます。
また、指針を定め、研修もして周知啓発に努めたとしても、カスハラの判断がされて、合理的配慮の不提供につながるおそれはなくなりません。そのような場合は、事業者に問題を指摘して改善を促すことが必要です。厚労省は、誰もがアクセスしやすい相談窓口を設置し、その周知を図るべきと考えますが、厚労省の見解をお聞かせください。
〇政府参考人(田中佐智子君)
重ねてになりますが、障害者差別解消法に基づく合理的配慮の提供義務を遵守する必要があることは当然のことでございますので、これらの点について誤った対応がなされることのないよう、しっかり周知を図ってまいりたいと思います。
また、障がい者差別に関します相談対応については、障害者差別解消法等に基づき、地方公共団体が障がい者差別に関する相談を受け付けるとともに、国は事業分野ごとに相談窓口を設置することとし、事業を所管する大臣等に事業者への助言、指導、勧告等の権限が定められております。加えて、これらの相談が適切な窓口に取り次がれるよう、メールや電話での相談が可能な「つなぐ窓口」を設け、必要な対応を行っていると承知をしております。
まずは障がい者の方の言動が不当にカスタマーハラスメントとして扱われることがないようにすることが重要ですが、仮にそのような事案が生じた場合には、こうした窓口に相談し、必要な支援を受けることができるよう、法律の施行にあたっては、ご指摘の改正旅館業法の例も参考に、内閣府等の関係省庁と連携して周知に取り組んでまいります。
〇委員長(柘植芳文君)
天畠君が発言の準備をしておりますので、お待ちください。
〇天畠大輔君
既存の相談窓口の周知は絶対に必要です。一方、つなぐ窓口だけでは不十分です。代読お願いします。
「つなぐ窓口」の実効性について障がい者団体にお話を伺うと、実際には自治体の窓口に回すことが多く、中央省庁にはつながりません。社会的障壁除去の求めがカスハラ扱いされた事案であれば、障害者差別解消法だけでなく、労働施策総合推進法に関する理解もなければいけません。自治体の障がい者差別に関する相談窓口だけで適切な対応ができるのか疑問です。
厚労省内にも相談窓口を設置し、法施行にあたって、併せて周知しつつ、相談が来れば、指針に基づいて事業者に適切な指導・助言ができるのではないでしょうか。また、内閣府のつなぐ窓口にカスハラ関連の相談が来れば、厚労省につなぐことができ、おっしゃるような連携の更なる強化を図ることができます。この点は今後も追及します。
次に行きます。就活セクハラについて伺います。昨年行われた「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会」において示された資料によれば、就活等セクハラは、男女問わず3割が経験しているとのデータがあります。就活生を45万人と仮置きすれば、毎年13万人以上が被害に遭っていることにもなります。立場の弱い就活生に対して行われる深刻な人権侵害と考えます。しかし、厚労省の説明資料では、就活セクハラに対して、男性・女性とも「一定程度」見受けられるとの表現にとどまっており、厚労省が深刻に受け止めているのか疑問を持ちます。
大臣は、就活セクハラが就活生の尊厳を著しく傷つける行為であり、人権侵害であると認識していますか。
〇国務大臣(福岡資麿君)
求職者等に対しますセクシュアルハラスメントは、求職者等の尊厳や人格を傷つけるものでありまして、あってはならないものであると認識をしております。
厚生労働省の調査によれば、過去3年間に就職活動またはインターンシップを行った経験がある方のうち、約3割がインターンシップ中または就職活動中にセクシュアルハラスメントを経験したという結果となっております。また、同じ調査においては、過去3年間に就活等セクシュアルハラスメントを受けた経験のある者の心身への影響について「怒りや不満、不安などを感じた」、また「就職活動に対する意欲が減退した」「眠れなくなった」と回答した割合が高くなっております。
本法案では、こうした実態調査の結果も踏まえまして、求職者等に対しますセクシュアルハラスメントを防止するため、職場における雇用管理の延長として捉えた上で、事業主に雇用管理上の必要な措置を義務付けることとしております。
〇天畠大輔君
代読します。では、本法案の防止規定で、大幅に就活セクハラが抑止されると考えているのでしょうか。定量的に示してください。
〇政府参考人(田中佐智子君)
お尋ねの点につきまして定量的な見込みをお示しすることは困難でございますが、すでに事業主に雇用管理上の措置を義務付けておりますセクシュアルハラスメントの状況を見ますと、厚生労働省の調査によれば、セクシュアルハラスメントの被害を受けた労働者の割合は減少傾向にあり、またセクシュアルハラスメント対策に「取り組んでいる」と労働者から評価されている勤務先においては、労働者がセクシュアルハラスメントを経験した割合が低くなっていることから、求職者等に対するセクシュアルハラスメントについて今般事業主に対策を義務付けることで、その防止につながり、求職者等の保護に資するものであると考えております。
〇天畠大輔君
代読します。求職者等の尊厳や人格を傷つけるものであり、あってはならないものであると認識していながら、セクハラは減っていると悠長な発言をされています。しかし、前回の質疑で示したとおり、企業におけるセクハラ対策の実施有無によってセクハラの経験率は変わらないというデータもあります。防止規定のみでは実効性がないと言わざるを得ません。やはりハラスメントの禁止と救済措置の具現化を早急に検討すべきと申し上げまして、質疑を終わります。
※6月3日厚生労働委員会の冒頭で、「労働施策総合推進法等改正案」に対する反対討論を行いました。以下の記事をご覧ください。