2023年5月16日 厚生労働委員会質疑「精神科病院の身体拘束の告示をブラックボックスで決めるべきではありません」


○天畠大輔君
れいわ新選組の天畠大輔です。私も、精神科病院での身体拘束について質問します。代読お願いします。

昨年10月27日の参議院厚生労働委員会で、平成16年から平成26年の10年間で身体拘束件数が2倍になった理由を尋ねました。加藤大臣は、令和元年度に厚労省が行った研究事業の結果をもとに、「高齢者の身体疾患への対応のために身体的拘束が増加している可能性が示唆されている」と答弁されました。
しかし、大臣が言及した研究の報告書には、「隔離・身体的拘束増加の要因としては、隔離・身体的拘束指示患者のうち急性期系の病棟入院料の病棟に入院している患者の割合が増加していることから、急性期系の病棟入院料の普及が関係している可能性について考える必要がある」との記述があります。このほかにも、急性期病棟が原因と示唆する記述が2か所あります。
それなのに、答弁では急性期系の病棟入院料についてはまったく触れていません。一部を切り取って、身体拘束増加の要因に高齢者を挙げるのはミスリードではないですか。なぜ触れなかったのか、教えてください。また、改めて、なぜ10年間で2倍になったのか、ご答弁ください。

○国務大臣(加藤勝信君)
昨年10月27日の答弁においては、令和元年の研究報告書に記載されている身体的拘束件数の増加の要因の1つである、「高齢患者が増加する中で、高齢者の身体疾患への対応のための身体的拘束が増加している可能性が示唆されている」との部分を引用したところであります。原因として特定されているという意味ではなくて、まさに、申し上げたように、増加の要因として可能性があるということでありますし、それ以外にもあり得ると考えております。ご指摘のように、令和元年の研究報告書においては、身体的拘束の増加の原因の要因について、の1つとして、急性期系の病棟入院料の普及が関係している可能性について考える必要があるというふうに書かれております。

なお、研究報告書の当該部分においては、その上で、しかし、調査協力が得られた医療機関においては、急性期系病棟入院料が算定されている割合が630調査の結果と比較して高いことや、急性期系入院料の病棟はここ数年で増加をしており、そこに入院する患者数も増加してきているため、隔離、身体的拘束指示患者の全体に占める構成比が相対的に急性期病棟で高くなっている可能性があることにも留意しなければならない、こういった指摘がなされているところであります。

いずれにしても、身体的拘束を含む行動制限の最小化は重要な課題であります。その方策について、昨年度の検討会の、等でまとめられた報告書の提言なども参考にしつつ、当事者のご意見も丁寧にお聞きをし、引き続き検討していきたいと考えております。

○天畠大輔君

代読します。
精神保健福祉法第37条に基づく大臣告示130号は、精神科病院での身体拘束に対する基本的な考え方や要件を定めたもので、昭和63年に作られました。身体拘束数は、この告示130号の下で2倍になったということです。そして、この告示130号を、34年間で初めて、大幅に改定する動きがあります。
まず、厚労省から、大臣告示130号について、なぜ改定することになったのか背景と、どのような方向性で変えるのか、これまでの検討過程、今後の検討の見通しを簡潔にお答えください。

○政府参考人(辺見聡君)
精神科病院における医療につきましては、患者の尊厳の確保が重要であり、そのために患者の権利を確保するための取組を一層推進させていく必要があると考えております。

令和3年10月から開始された地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会におきましては、検討事項の1つである入院中の患者の意思決定支援や権利擁護の取組の中で、行動制限の最小化に向けた議論が行われ、処遇基準告示を見直し、要件や対象の明確化を図ることや、精神科病院が組織として行動制限の最小化に取り組むことなどについて提言されるとともに、社会保障審議会障害者部会においてもご議論いただき、同趣旨の提言が令和4年6月にまとめられたところでございます。
また、昨年度の調査研究事業では、行動制限最小化のための精神科病院の取組等について事例収集を行うとともに、行動制限最小化にむけた具体的な方策等について議論が行われ、処遇基準告示の提言も含めた形で報告書がまとめられたところでございます。
こうした経緯を踏まえ、今後、当事者を含む関係者のご意見を丁寧にお伺いしながら、処遇基準に関する告示改正を含めた身体拘束を含む精神科医療における行動制限の最小化に向けた方策について引き続き検討してまいりたいと考えているところでございます。

○天畠大輔君
身体拘束は人権を制限する行為です。代読お願いします。

今厚労省からご答弁いただいたとおり、患者の権利を確保することが重要です。
その上で、私は、告示130号を変えるなら、10年間で2倍になった身体拘束を減らし、ゼロにする方向性が必要だと考えます。しかし、より詳細に告示改定の経過をたどってみると、この方向に向かったものになるのか不安と懸念が出てきます。
2016年12月、大畠一也さんが石川県にある精神科病院で、身体拘束の結果、エコノミークラス症候群で亡くなりました。2020年、名古屋高裁の控訴審で、身体拘束開始時からの違法性が全面的に認められ、大畠さんのご家族ら原告側が逆転勝訴しました。翌2021年10月、最高裁は被告である病院側の上告を受理せず、判決が確定しました。同年11月、日本精神科病院協会がこの判決に反発する声明文を出しました。そして、翌年、2022年3月、厚労省の精神保健医療福祉に関する検討会で、検査及び処置等を行うことができない場合という文言が入る提案がありました。その後、この変更に反対する動きがあり、文言が何度か変遷しましたが、結果的にこの検討会の報告書に「治療が困難」という文言は残りました。このときは、敗訴した病院側を、声明を出したまさにその後に、「検査及び処置などを行うことができない場合」「治療が困難な場合」といった身体拘束が広がり得る文言が出てきたわけです。土俵をつくり替えようとしているとの懸念が噴出しました。

そして、やはり懸念が大きいのは、先ほど述べた検討会報告書後の身体拘束最小化に関する研究を「令和4年度障害者総合福祉推進事業」という検討メンバーを事前に公表したり、公募したりする必要がない事業で行ったことです。この事業の報告書やメンバーは終了後に公開されましたが、3月の厚労委員会で川田議員が指摘されたように、最高裁で違法性が確定した石川県の身体拘束死裁判において、その身体拘束を違法ではないと被告病院側の意見書の中で主張した方が2名、研究班に入っていました。政府は、告示改定を含む身体拘束の最小化を目指す研究を、なぜ公開の場で行わなかったのですか。大臣、お答えください。

○国務大臣(加藤勝信君)
今一連の経緯のお話もありましたので、私の方からも少し流れに沿ってお話をさせていただきたいと思います。
令和3年10月から開始された地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会において、行動制限の最小化に向けた議論が当事者も含めた公開の場で行われ、処遇基準、告示の改正が提言をされました。そしてさらに、社会保障審議会障害者部会においてもご議論をいただき、同趣旨の提言が令和4年6月にまとめられたところでございます。
その上で、検討会や障害者部会において検討を深めていくべきとされたことを踏まえ、令和4年度の調査研究事業では、行動制限最小化の取組の事例収集を行い、整理した上で、精神科病院において効果的に行動制限に取り組むための方策に関する検討を行うとともに、処遇基準告示をどう明確化できるかについて、厚生労働省として検討を行う上での参考とするため、技術的な検討が行われたものであります。
身体的な拘束を含む行動制限の最小化、これは大変重要な課題であります。そして、その方策については、こうしたこれまでの検討会、そして社会保障審議会障害者部会における議論、こうしたものも踏まえて、まさにこれから当事者のご意見を丁寧に聞きながら、検討を深めていきたいと考えております。

○天畠大輔君
代読します。
身体拘束の要件に関する議論の透明性をもっと高めるべきです。委員の皆様や政府には釈迦に説法ですが、告示とは、資料1のとおり、行政庁が決定した事項を一般に公式に知らせる行為、又はその公示の形式の一種とされています。告示は、一般的に、各大臣、各委員会及び各庁の長官に告示発布権があるとされ、国会での審議を通さずに発出・改正することができます。
この告示130号については、今の精神保健福祉法で、「厚生労働大臣は、第1項の基準を定めようとするときは、あらかじめ、社会保障審議会の意見を聴かなければならない。」と定められていますので、今後、社会保障審議会を含めた厚労省が検討するのだと思います。しかし、そもそも、繰り返しになりますが、身体拘束は人身の自由という人権を制限する行為です。国連の障害者権利条約委員会は、昨年、日本政府に出した勧告で、「精神科病院における障害者の隔離、身体的及び化学的拘束」を懸念を持って注視すると書いています。そして、身体拘束により亡くなった人がいることは、まぎれもない事実です。また、身体拘束が患者に与える屈辱は、外からは見えませんが、その後の人生に大きな影を落とします。私のところにもいろいろな訴えが届いています。だれもが精神科病院に入院する可能性がある中で、身体拘束について決める過程に不透明さがあったこと、今後、社会保障審議会を含め厚労省の内部でだけ話が進んでしまう可能性があることは問題があると考えます。

その上で、告示の内容について少し伺います。
資料2のとおり、現在の告示の基本的な考え方(2)には、「身体的拘束は、当該患者の生命を保護すること及び重大な身体損傷を防ぐことに重点を置いた行動の制限」であるという記述があります。政府はこの重要性をどうお考えですか。また、令和4年度障害者総合福祉推進事業報告書の提言には、この文言に言及がありませんが、変えないということでよいですか。大臣、お答えください。

○国務大臣(加藤勝信君)
まず、今ご指摘のように、大臣告示を改めようとする場合には、精神保健法及び精神障害者福祉に関する法律の37条第3項を踏まえて、社会保障審議会の意見をあらかじめ聴かなければならないとされているわけでありますから、それにのっとって対応していくことでありますし、また、社会保障審議会での議論というのは基本的には公開されているものと承知をしております。その上で、身体的拘束等の行動制限については、精神保健福祉法第36条第1項において、医療又は保護に欠くことのできない限度においてのみ行うことができるとされております。処理基準告示についても、ご指摘の基本的な考え方の部分を含め、法律の趣旨に基づき定められているところであり、この趣旨は、先ほどからも重ねて答弁させていただいていますように、尊重されるべきものと考えております。

何度も申し上げて恐縮ですが、身体的拘束を含む行動制限については様々な課題があること、それは我々も認識をしており、その最小化は図ることは大変重要な課題であります。その方策について、まさに昨年、昨年度来より、検討会あるいは障害者部会等での議論、そして提言も参考にしながら、当事者のご意見を丁寧に聞き、引き続き検討を進めていきたいと考えております。

○委員長(山田宏君)

速記を止めてください。

○委員長(山田宏君)
速記を起こしてください。

○天畠大輔君
明確なお答えがなく、心配です。
過去の国会では、告示の内容について政府がきちんと答弁し、議論している例があります。告示改定は一旦立ち止まり、国会で議論すべきと考えますが、大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(加藤勝信君)
ご指摘のあったその過去の答弁のその状況をちょっと承知してませんので、もちろん、告示の内容について、たとえば今の告示の内容については、我々はしっかり答弁をさせていただいているところであります。そして、ご指摘の点は、これから拘束の最小限化に向けてこの告示を含めてどう対応していこうか、こうした見直しが今まさに進んでいる中でありますから、具体的なことについてはという中にあるということをまず是非ご理解をいただきたいと思います。その上で、先ほどから申し上げましたように、この趣旨は尊重されるべきということは明確に申し上げさせていただいたところでございます。

○委員長(山田宏君)
速記を止めてください。

○委員長(山田宏君)
速記を起こしてください。

○天畠大輔君
国会での議論抜きに告示改定を決めることのないよう念押ししますが、大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(加藤勝信君)
大臣告示は、法律にありますように、最終的には私の責任でもって告示をさせていただくわけでありますし、そのプロセスにおいては審議会において諮るということ、そして、今まさにここでさせていただいているように、国会においても丁寧に説明をさせていただきたい、その状況状況の中において丁寧に説明をさせていただきたいと思っています。

○天畠大輔君
代読します。
現行の告示の基本的な考え方(2)は、身体拘束はあくまで患者本人への医療又は保護を目的とするもので、治療が難しいから行うものではないことを定義し、患者の利益を保護するとても重要なものです。変えるべきではないと考えます。

さて、厚労省から業界団体へ、事務連絡の形で行われている「身体固定」があります。「ミトン及び介護衣の使用が、生命維持のために必要な医療行為のため、あるいは、身体安全保護のために行われる短時間の固定の手段である場合には、精神保健福祉法上身体拘束に当たらない」というものです。この文言の曖昧さにより、数時間患者を縛っても身体拘束にはカウントしない、もしくは、ある病院では身体拘束としてカウントされるものが、別の病院では身体固定とされている、そんな現状があるようです。身体拘束のデータも正確ではないということです。精神保健法37条第2項にある、「精神病院の管理者は、その基準を遵守しなければならない」を徹底できる仕組みづくり、さらに、その手前にある身体拘束の現状の把握が告示改定の前にすべきであると考えます。

引き続き注視します。質疑を終わります。